研究課題/領域番号 |
26291055
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
寺島 一郎 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40211388)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 光化学系I / 光化学系II / 活性酸素 |
研究実績の概要 |
2分間の強光+2分間の弱光からなる変動光は、シロイヌナズナの野生型植物にも光化学系I の光損傷をもたらす。強光時の光強度を高めてその効果をみたところ、予想に反して、光化学系Iの阻害の度合いは大きくならなかった。この原因を解明することが、光化学系Iの光損傷および損傷回避のメカニズムにつながると考え、この原因を精査した。光化学系Iの損傷が起こる条件は、光化学系IIから光化学系Iへの電子のフラックスが大きいこと、光化学系Iの受容体側の活性化率が低いこと、光化学系Iの循環的電子伝達系を含む代替経路の活性が低いこと、の3点に絞ることができる。これらを示すデータを原著論文にとりまとめ、投稿した。 亜熱帯から温帯常緑樹林にみられる林床植物であるクワズイモは、光環境馴化に関する研究に広く用いられてきた。この植物を明期8時間、3段階の光強度で栽培するとともに、2分間周期の変動光で栽培した。これらのサンプルを用いて変動光に対する抵抗性を調べたところ、弱い定常光で栽培した個体の光化学系Iがもっとも損傷されにくかった。また、変動光で栽培すると熱散逸能力が高められることがわかった。 野外の植物の光化学系II の光阻害の実際を調べるために、大学構内の植物を季節毎に採取して、採取場所の光環境と光阻害への抵抗性に関する関係を調べた。光合成速度の著しく高い一部の植物を除くと、熱散逸能力が大きいほど、光化学系 IIの光阻害をうけにくいことがわかった。光化学系II阻害をもたらす条件についても検討を加えて、原著論文として公表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
順調に研究が進捗し、原著論文の公表も予定どおり行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
変動光下では、光化学系Iの下流の電子受容側が還元されて光化学系Iの電子伝達を律速することが分かっている。この律速段階がどこにあるのかを、各種変異体の挙動を比較することで特定する。また、変動光環境で増強されるコンポーネントがどのような分子メカニズムで増強されるのかを解析する。電子伝達系のレドックス制御によるという作業仮説で研究を推進する。レドックスレベルとコンポーネントの量の関係が、レドックス制御の変異体ではどのように変化するのか調べ、手がかりとする。 変動環境における光阻害メカニズムについて精査する。光化学系Iの光阻害は、冷温感受性植物ばかりでなく、変動光下で起こる普遍性のある現象である可能性がある。ESR測定、閃光法などを駆使して阻害メカニズムを明らかにする。 野外の植物で、変動光環境に強い植物を見いだし、この植物について精査する。また、春の林床植物、夏期林床植物、陽生植物、作物などの変動光への追随能力、変動光環境への耐性を比較する。春植物のカタクリなどに注目する。 また、これまでの知見をもとに、変動光や光阻害を考慮した光合成系の光馴化モデルを構築する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究に取り組んでいる博士課程の学生を、博士研究員として雇用するために、消耗品費を最小限として、次年度に繰り越したため。
|
次年度使用額の使用計画 |
本研究に取り組んでいる博士課程の学生が学位を取得したので、博士研究員として雇用するため人件費を大幅に増額した。
|