研究課題
[I] Linc RNA の構造の研究:(1) 相補的なFliとRliのRNA 分子の5’末端と 3’末端の構造を決定するために、栄養成長期の頂芽からRNA分子を精製したが、結論が得られなかった。再度、花芽からRNAを抽出して実験を試みたが、Fli, Rliに対応するRNA分子は検出されなかった。[II] ETT 遺伝子発現と葉の形態形成におけるLinc RNAの役割の研究:昨年度の予備的研究により、Linc RNAコード領域のT-DNA挿入変異体では、Rli RNAの蓄積レベルが減少し、さらに標的遺伝子であるETT mRNAレベルも減少し、開花時期が遅れていると報告した。サンプル個体の量を増やした定量実験の結果、ETT mRNAレベルの減少と開花時期の遅れは正しと判断されたが、Rli RNAの蓄積の減少結果は再現性に乏しいことがわかった。[III] Linc RNA とタンパク質複合体の研究:我々は、AS2 body(AS2タンパク質を含む核小体近傍の顆粒)にLinc RNAが存在すると仮定し、その実証実験をしてきた。(1) 酵母を用いたTwo-hybrid systemにより、AS2に結合する可能性がある多くのタンパク質のcDNAクローンを得た。その中には、ヒストン H3.1やサイクリンなどが含まれていた。(2) 遺伝学的手法によりAS2 body形成に必要なAS2のアミノ酸配列としてジンクフィンガー様モチーフを同定した。このモチーフはDNA または RNA 分子に結合する可能性がある。さらにAS2 bodyの研究に関しては、下記のような興味深い進展があった。
2: おおむね順調に進展している
[I] Linc RNA の構造の研究: Linc RNAの検出とそれらの末端部位の同定には至らなかったが、文献などによれば、世界で2ヵ所の研究グループが、我々と同じLinc RNAを検出し報告している。我々も当初は検出できたが、再現的ではなくなった。[II] ETT 遺伝子発現と葉の形態形成におけるLinc RNAの役割の研究:FliとRliのLinc RNAがコードされるゲノム領域は、ETT転写の制御領域であり、AS1(AS2と複合体を作り機能する分子)の結合部位の近傍である。T-DNAの挿入変異体を用いた遺伝学的研究により、Linc RNAがコードされるゲノム領域が花芽形成を促進している可能性が示唆された。[III] Linc RNA とタンパク質複合体の研究:AS2 bodyの精製を試みたが、成功しなかった。しかし、(1) 酵母を用いたTwo-hybrid systemにより、AS2に結合する可能性があるタンパク質の cDNA クローンを多数得た。現在分子を同定しつつある。また、(2) AS2 body形成に必要なAS2のアミノ酸配列を同定し、これらのアミノ酸配列と葉の形態形成との関連性を調べた。その結果、AS2のジンクフィンガー様モチーフの変異体などでは as2-1 変異植物を相補できなかった。AS2 body形成と葉の形態形成との間には密接な連関がある。(3) AS2 bodyは、培養細胞では、細胞周期の M 期後期では均等に分配されたが、葉原基の分裂細胞では、不均等に分配された。これは、AS2 bodyの分配パターンが、葉の発生過程と連関している可能性を示す。(4) ETT のコード領域のexon 6 には6個のCpG 配列あり、野生型ではすべてメチル化されている。このメチル化の維持にはAS2 と少なくとも二つの核小体タンパク質が必要であった。
温室の故障により形質転換植物を用いた研究に遅れが出たので、予算の一部を平成29年度へ繰りこした。繰越し部分の研究に焦点を当てる。[III] Linc RNA とタンパク質複合体の研究:(1) 酵母Two-hybrid systemにより得られた cDNA クローンをさらに解析する。(2) AS2 bodyができない変異as2をas2-1 変異植物に導入して相補能力を調べる。ジンクフィンガー様モチーフに結合する分子を探索する。Linc RNAである可能性もある。(3) 子葉や葉原基の分裂細胞におけるAS2 bodyの不等分配を制御している分子を同定し、このような分配の仕組みを調べる。(4) exon 6 の6個のCpG のシトシンメチル化の維持の仕組みを研究する。これにより、DNA 複製後のCpGにおけるメチル化シトシンの新しい維持機構が解明される可能性がある。
平成28年9月、RNAの抽出に使用する実験植物の大量栽培の過程で、想定外に害虫が大量発生したために植物の栽培に深刻な影響が生じた。駆除をおこない11月に栽培を再開したがRNAの抽出に必要なだけの植物を確保するのに、年度内では間に合わず、研究期間を延長する必要があったため、その実験に必要な試薬等の消耗品代を繰り越した。
29年度が最終年度であるため、記入しない。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 4件) 備考 (5件)
Plant Cell Physiol.
巻: 57(8) ページ: 1744-1755
10.1093/pcp/pcw098. Epub 2016 May 19.
Biology Open
巻: 5(7) ページ: 942-954
10.1242/bio.019109
http://www.bio.nagoya-u.ac.jp/~yas/dmcb/indexjp.html
https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~bunka/ito_title%20page.html
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https://www3.chubu.ac.jp/biology/department/biochemistry/research/machida/
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/RNAwatanabe/