研究課題/領域番号 |
26291057
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鳥居 啓子 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 客員教授 (60506103)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 植物科学 / 発生学 / 気孔 / ペプチド / 受容体 / シロイヌナズナ / 国際研究者交流 / 国際情報交換 |
研究実績の概要 |
プロモータースワップによる EPFファミリーペプチドの機能解析 シロイヌナズナゲノムには11のEPF/EPFLファミリー遺伝子が存在することがわかっている。これら11種類のメンバーの、(1) 気孔のパターン形成; (2) 背丈の伸長へ及ぼす効果を総合的に解析した。 そのため、全EPFペプチド遺伝子を、気孔系譜および、茎の内皮で発現させたプロモータースワップコンストラクトを22種類作成し、シロイヌナズナepf2突然変異体(気孔系譜が過剰にできる変異体)およびepfl4 epfl6二重突然変異体(背丈が短くなる変異体)へ導入した。その結果、EPF/EPFLファミリー遺伝子は、どの遺伝子でも大小の差はあれ、EPFL4/6の機能を一部相補することが示された。EPFL7では、背丈が野生型以上に高くなるという予備データが出ており、このペプチドは活性がより高い可能性がある。現在、各EPF/EPFL遺伝子の気孔系譜を抑制する活性に関して解析中である。
EPFファミリー遺伝子の発現部位と機能の解析 EPF/EPF-LIKEペプチドファミリーのうち、5つの遺伝子の機能はまだ解っていない。本年度は、それら5つのプロモーターの制御下でレポーターGUS遺伝子を発現させた形質転換体における発現部位の解析を行なった。その結果、茎頂分裂組織で強く発現するもの、維管束に特異的に発現するものなどが見出され、EPF/EPFLペプチドは、 幅広い器官・組織で発生と形態形成に関わるシグナルとして機能することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
WPIの研究組織である本研究所(ITbM)では、一定数の外国人ポスドク・スタッフを採用する事が期待されている。本基盤B研究の推進には、採用された外国人ポスドクが中心的な役割を果たしている。言葉の壁による部分もあり研究進展に遅延が生じていた。しかしながら、「研究実績の概 要」に示したように、今年度の解析からは今後につながる成果が着実に生み出されつつある。今後も引き続き、 定期的な研究進行状況報告と密なコミュニケーションを行なうことにより研究を着実に進行させたい。また、ワシントン大の研究者の招聘や共同研究等も積極的に行なうことにより、本年度は研究計画の予定通りの遂行と成果へつなげたい。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はプロモータースワップによるEPF/EPFLファミリー遺伝子のカタログ化を完了する。また、これらペプチドが、ERECTAファミリー受容体を介して作用するかどうか遺伝学的および生化学的に解析する。その為に、残るEPF/EPFLペプチドを合成もしくは大腸菌を用いて産生し 、受容体との直接結合および解離定数を解析する。さらに、レポーター遺伝子を用いた発現場所の詳細な解析と、各々のEPF/EPFL遺伝子を欠損する突然変異体の表現型の解析を行ない、残るEPF/EPFL遺伝子の植物内における機能を推察する。EPF/EPFL遺伝子の中には、既存の突然変異体が存在しないものもある。それらに関しては、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集による突然変異体作出も試みる。
EPF1/2ペプチドによる気孔分化抑制には、TMM受容体の存在が必要である。その一方でEPFL4/6ペプチドをtmm突然変異体の芽生えに添加することにより、気孔の全くない、通常表皮細胞のみからなる表皮が分化する。そのため、EPFL4/6ペプチドによる気孔分化抑制にはTMM受容体は必要ない。本年度は、EPF1/2ペプチド対EPFL4/6ペプチドの気孔抑制効果への違いの分子細胞メカニズムの解析に迫る予定である。具体的には、プロテオミクスの手法を通じて、TMM非存在下において、EPFL4/6ペプチド添付下でERECTAと相互作用するシロイヌナズナ芽生え表皮のタンパク質の同定を試みる。また、EPFL4/6とERECTAとが本来相互作用するのは茎の維管束組織である。そのため、維管束にのみERECTAを発現させた形質転換体を用いて、ERECTAと生理的な条件で相互作用するパートナー受容体の同定を試みる。これらの研究は、ワシントン大学およびITbMのプロテオミクス専門家との共同研究として行なう予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
進展状況に関連して説明したが、外国人ポスドクの採用と赴任、そして実際に戦力として稼働するまでに予想外の時間がかかってしまい、研究進展が遅れた分、次年度への繰り越しが生じた。しかしながら、まとまった成果が出始めているため、基盤Bの期間全体(3年間)のあいだに、期待された成果を出すことは十分可能であると思われる。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度からは、プロテオミクスなど生化学的な研究を行う事、技術員をパートタイマーとして雇用し、遺伝学のルーチンタスク(ジェノタイピングなど)を迅速にすること、シアトルの鳥居研究室にいるペプチド化学を専門とするポスドクをITbMへ短期間招聘することなどにより、研究の進展をはかる。これらには予算がかかるため、キャリーオーバーの分を充てることにより、厳正で有効な予算の執行に務める予定である。
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