研究課題
・ APC/Cユビキチンリガーゼの活性を負に制御するGIG1を欠く変異体では、非対称分裂に異常が生じ、細胞運命決定に特徴的な影響を受ける。この細胞運命決定に関する表現型を促進、あるいは抑圧する変異体の解析を行い、今年度、新たに2個の変異体の原因遺伝子を同定することができた。いずれも、核内RNA代謝に関わる因子であることから、孔辺細胞の運命決定プロセスに、核内RNA代謝が何らかの重要な役割を持つことが示唆された。・ gig1変異体にcDNAライブラリーを導入して、細胞運命決定の異常に影響するcDNAの単離を行った。得られたcDNA はmRNAのポリA付加に機能する核タンパク質をコードしており、この遺伝子をノックアウトすると、gig1の表現型が促進されることが分かった。gig1変異により引き起こされる異常にはRNA代謝が密接に関連していることが改めて示唆された。・ 昨年度から引き続き、APC/C阻害タンパク質GIG1を誘導発現する系とプロテオームの手法を用いて、APC/C基質タンパク質の網羅的な同定を試みた。しかし、APC/Cの基質として既に知られているサイクリンBが候補タンパク質の中に検出されておらず、今後の更なる条件検討が必要であることがわかった。・ 細胞周期制御G2/M期に重要な転写因子MYB3Rがジベレリン信号伝達系と密接な関わりを持つ可能性を見出すことができた。抑制型MYB3Rを欠く変異体では、ジベレリン生合成の阻害による成長抑制が大きく緩和されることがわかった。また、発芽阻害、花成の抑制など成長とは直接関連しないジベレリン作用についても、阻害剤の効果を回復させることがわかった。この結果から、MYB3Rはストレス下での成長抑制だけではなく、ジベレリン信号伝達全般に深く関連していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
gig1変異体を用いた細胞運命決定に関わる研究では、変異体のスクリーニングや完全長cDNAの導入により複数の関連因子を同定することができた。これらの多くは核内RNA代謝に機能する因子をコードしていたことから、RNA代謝異常とgig1変異体の表現型に密接な関連があることを明らかにすることができた。また、塩ストレス下での成長抑制にMYB3Rが必要であることをすでに明らかにしていたが、平成27年度は、このようなMYB3Rの生理機能に、ジベレリン信号伝達が関与している可能性を見出した。MYB3Rはジベレリン信号伝達を直接仲介していることが想定され、このメカニズムを明らかにすることができれば、ジベレリンによる成長制御の新しい分子メカニズムの解明につながる可能性がある。一方、APC/CユビキチンリガーゼやMYB3Rの標的遺伝子の網羅的同定など、一部の研究計画については、技術的な課題が残された。
gig1変異体を利用した促進変異体の研究を進め、原因遺伝子をさらに同定していく。また、これまでに同定した原因遺伝子のほとんどが核内RNA代謝に関わる因子をコードしていたことから、RNA代謝とGIG1機能の密接な関連が考えられた。GIG1とRNA代謝を結ぶ分子メカニズムやその生理的な意義について明らかにしていく必要がある。APC/C基質の網羅的な同定を目指した研究では、プロテオミクスを用いた研究に加えて、バイオインフォマティクスの手法を取り入れたin silico解析により、候補タンパク質の絞り込みを行う予定である。候補タンパク質がAPC/Cの基質であるかどうかは、destruction boxに変異を導入してその効果を調べる方法のほか、APC/C阻害タンパク質を過剰発現させる系を利用して解析する。また、MYB3Rがジベレリン信号伝達に密接に関わっていることが示唆されたため、その分子メカニズムについて明らかにしていく。特にジベレリン信号伝達の鍵となるGRAS型転写因子DELLAとの間にどのような分子間の関連があるのかを解析する。DELLAとMYB3Rとの間の物理的な相互作用について、酵母ツーハイブリッドなどにより解析するほか、機能的な相互作用についても、それぞれの変異体や過剰発現体、マーカー株を組み合わせて解析する。
クロマチン免疫沈降法を確立するための予備実験の過程で、対象とする転写因子が特殊な性質を持つため、条件の設定が予想外に困難なことが判明した。このため条件検討に予想よりも時間を要することとなった。
平成28年3月までにクロマチン免疫沈降の予備実験を終了し、4月から本実験を行う。そして平成28年6月に結果の解析を行い、7月中に研究結果を取りまとめる計画である。このため、クロマチン免疫沈降の実施に必要な予算を、平成28年4月から7月の間に使用する。
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