研究課題/領域番号 |
26291059
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
河内 孝之 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (40202056)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 植物分子遺伝学 / 成長相転換 / 陸上植物進化 / フィトクロム |
研究実績の概要 |
栄養成長相から生殖成長相への成長相の転換の制御機構は被子植物では花成と呼ばれ、シロイヌナズナをモデルとして研究が進められた。日長依存的な制御経路では、時計の出力系として、GIと呼ばれる核タンパク質と青色光吸収ドメインをもつユビキチンリガーゼであるFKF1が複合体を形成し転写抑制因子CDFを光周期依存的に分解することで、下流の転写因子COおよびフロリゲンFTを制御するモデルが提唱されている。また、花成制御には光質依存的制御経路も存在する。我々は苔類ゼニゴケを用いて、これらの経路を検証し、26年度までにGI-FKF複合体が、ゼニゴケの配偶体世代の成長相転換を制御することを示した。27年度は下流因子CDFおよび相転換の統合因子の解析を進めた。ゼニゴケにはCDFオルソログが1コピー存在し、CDFの遺伝子破壊株は短日条件でも成長相転換を示した。また、単独変異では相転換が観察されないgiやfkfとcdfの二重変異体が短日でも相転換するというcdf表現型を示すことから、CDFが下流因子であることがわかった。つまり、GI-FKF-CDFの制御モジュールは植物が陸上化した時点で成立しており、配偶体世代の成長相転換の制御に利用されていることがわかった。 また、ゼニゴケの成長相転換には遠赤色光の存在が必要である。この経路にフィトクロムおよび下流の転写因子PIFが関与することも明らかにした。この光質経路と日長経路の統合因子についても解析を進め、新たな転写因子を同定した。この遺伝子は破壊すると相転換をまったく示さず、相転換に必要であることがわかった。一方、この遺伝子を構成的なプロモーター下で発現させると日長や光質条件に関わらず、成長相転換を誘導できることから、この因子は相転換に十分であり、成長相転換のマスター制御因子として機能することがわかった。現在、この因子を制御する分子機構の解明を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基本的に計画通りに実験が進んだ。(1)光周性制御に関しては遺伝子の有無だけでなく、単独および多重突然変異体を用いた機能解析からGI-FKF-CDFの制御モジュールが進化的に保存されていることが明らかになった。(2)光質経路に関しても、突然変異体を用いた解析によって、光受容体の制御とその下流転写因子の相転換への関与が明らかにできた。特に単一分子種であるフィトクロムと同じく単一分子種であるフィトクロム相互作用因子PIFが、典型的なフィトクロム応答に加えて、光質依存的な相転換制御に関わっていることは興味深い。その分子機構の解明が期待される。(3)光周性や光質といった環境因子を統合するマスター制御因子の同定ができた。これらの結果は日本植物生理学会の年会において発表した。 今後は、光周性制御に関しては、上流と考えられる時計遺伝子との関連を明らかにすることが重要である。また、CDF下流の制御実体を明らかにする必要もある。これは、現在、RNA-seq解析およびChIP-seq解析の準備を進めており、次年度に実施予定である。
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今後の研究の推進方策 |
27年度に得られた成果の取りまとめを進める。また、得られた成果に基づく研究を継続する。長日条件でも遠赤色光補光は必要でる。日長経路と光質経路の相互作用があるか、その場合の実体を明らかにすることが必要である。ゼニゴケにおける遺伝子の機能解析の実験基盤は基本的に整備され、シロイヌナズナの知見をもとに、ゼニゴケの相同遺伝子の機能解析を進めることは極めて効率的に進めることができ、実験が加速する状況にある。一方で、シロイヌナズナでは保存されていないことや未解明であることに迫ることも重要である。ゼニゴケの順遺伝学解析から成長相転換に関わる因子を同定することがますます大切なアプローチになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は長期的な研究の進展を考慮して、分離した突然変異体の遺伝解析や表現型解析を優先させた。そのため、次年度使用額が生じた。また、これまでに技術的に確立しているRNA-seqに加えて、転写因子の直接的な標的を明らかにするChIP-seq解析の実験系の目処がついてきた。そのため、経費のかかる次世代シーケンサーを用いた解析は次年度におこなうことが妥当と判断した。RNA-seqを先行して行うのではなく、エピトープを発現させた系統を確立し、ChIP-seq解析と併せて解析を行う計画とした。これは、研究の効率的な実施に必要な軽微な計画変更であり、基金制度のよって有効に研究費を活用するために許容される範囲と判断した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度にRNA-SeqやChIP-Seqといった解析に比較的高額な物品費が要する研究を予定している。現在、解析すべき変異体やエピトープを付与したタンパク質を発現する系統は確立しており、準備をほぼ完了している。
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