研究課題/領域番号 |
26291062
|
研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
西條 雄介 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 准教授 (50587764)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 植物免疫 / 遺伝子発現 / ヒストン修飾 / プライミング / クロマチン |
研究実績の概要 |
ゲノムワイドのRNA-seq解析によるプライミング標的遺伝子のリスト化を行った。病原細菌Pseudomonas syringae pv tomato DC3000 (Pst) AvrRpm1をエフェクター誘導性免疫(ETI)のトリガーとして、エフェクター欠損株であるPst hrpSをパターン誘導性免疫(PTI)のトリガーとして、4週齢のシロイヌナズナの下層の葉に一次接種し、48時間後に上層のシステミック葉に水刺激を与えて1時間後の発現プロファイルを得て(Illumina Hiseq 2000、シングルエンド100 bpで各サンプル15Mリード以上)、比較解析した。得られたプライミング標的遺伝子をクラスター化したところ、プライミングによる誘導効果がETI>PTIの遺伝子に加えてETI<PTIのものや、プライミングによって抑制が強固に起こる遺伝子も多数同定された。現在、各クラスターの代表遺伝子についてqRT-PCR解析により発現パターン確認を進めている。ETIによって強力にプライムされる標的遺伝子を個別に遺伝子発現を確認していき、その中からレポーター系開発にも有用なマーカー遺伝子の選定を進める計画である。 続いて、ChIP-seq解析によってプライミング成立の際のH3K4me3・K3K27me3の標的遺伝子座の同定を試みた。上述の条件で調製した一次接種48時間後のシステミック葉を解析に供した。しかし、サンプル繰り返し区間でばらつきが大きく、統計的に有意な傾向を捉えることができなかった。原因について検討し、実験条件の改善へ向けてのヒントを得た(後述)。ETI-PTI間でプライミングの質的・量的な違いとH3K4me3・K3K27me3の標識レベルを関連づけるため、ChIP-seq解析の再試行を計画している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大部分が新規のプライミング標的遺伝子(候補)を含む、プライミング成立時のRNA-seq解析プロファイルが得られた(申請者の知る限り、他に報告例はない)ため、今後の研究の進展が大いに期待できる状況になった。標的遺伝子のクラスター化によって、ETIとPTIがシステミックプライミングに及ぼす影響をゲノムワイドで俯瞰的に捉えることのみならず、様々な応答パターンに分類できる標的遺伝子のリストが得られた。その後、当初の提案(それらの遺伝子産物のシステミック免疫における機能の解析)より、むしろプライミングの成立基盤に迫る上で有用なマーカー遺伝子の選定を優先して進めている。一方、抗H3K4me3・K3K27me3抗体を用いたChIP-seq解析を小規模でスタートさせたところ、再現性の高い結果を得るのは技術的に非常に困難であることを早い段階で認識できた。当初に予定していたChIP-seqプロファイルが得られなかったことは残念であるが、逆に技術的なハードルの高さから問題点を他に先駆けて克服さえすれば(この点についても解決策となるヒントが得られた:後述)、得られる結果の独自性・画期性はより高いものになるであろうと予想された。 また予算的には、基金の多くを翌年度に繰り越すことができ、新たに博士研究員を採用できる運びとなった。したがって、総合的には概ね順調に進んでいると判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度より、生化学実験に習熟した博士研究員と植物研究への従事経験に富む技術補佐員1名ずつが本研究に着任することになり、研究計画を加速度的に進展できると期待している。ChIP-seq解析についても、システミック葉の位置や展開度(成長度)に応じてプライミング強度が異なることを示す、新たな結果を得て、ばらつきの大きさの原因が特定できたと考えている。この点に配慮して、本格的にChIP-seq解析を実施する(27年度のゲノム支援に申請済み)予定である。当初の狙い通りH3K4me3・K3K27me3の標的領域およびその標識のダイナミズムをゲノムワイドで明らかにして、プライミング状態とヒストン標識の関連性についてゲノムレベルで評価できると考えている。続いて、ETIによってプライミング効果が高まる標的遺伝子(選定したマーカー遺伝子のセット)についてChIP-PCR解析を行うことで、H3K4me3・K3K27me3標識並びにPolII(転写活性化型のC末端領域のリン酸化型)結合についての情報を得る。その結果に基づき、ヒストン修飾・PolIIポージング・プライミング状態との間での機能的連携のメカニズムに迫るモデル系の起ち上げに尽力する。 さらに、マーカー遺伝子プロモーターを利用したプライミングのモニタリング系を開発して、プライミングに異常を示す変異体の探索を進める。これにより、抵抗性タンパク質(ETI)の活性化からシステミックプライミングに至るシグナル系の構成因子に関する知見が深まることが期待される。
|
次年度使用額が生じた理由 |
博士研究員および技術補佐員(パートタイム)の採用を平成27年度より開始にして、人件費を運用する時期を遅らせたため。また、RNA-seq解析やChIP-seq解析の費用の一部について他のグラントからの経費を充当させたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
博士研究員および技術補佐員(パートタイム)の採用を平成27年4月より開始して、研究を迅速に推進できる体制を整えるとともに、H3K4me3・H3K27me3標識の標的遺伝子を網羅的に明らかにするためにゲノムワイドでChIP-seq解析を行う。これらの経費を賄うために今年度に繰り越した基金の大部分が用いられる予定である。
|