研究課題
本研究では、既知のバソプレシンV2受容体(V2aR)と祖先型V2受容体(V2bR)の分子・機能進化に注目することで、脊椎動物が進化の過程でいつ・どのようにして抗利尿作用を獲得したのかという謎を明らかにすることを目的としている。そのために、「V2受容体の起原と進化」ならびに「V2受容体の機能と進化」という2つの研究を進めている。平成26年度は、「起原と進化」についてはヤツメウナギ(カワヤツメ)のゲノムデータを元に、神経葉ホルモン5種類を同定して全長をクローニングした。分子系統解析ならびにCHO細胞での発現機能解析の結果、V1R/OTRに近縁な受容体が3種類、V2Rと考えられる受容体が2種類存在し、少なくともV1R/OTRとV2Rそれぞれ1種類ずつがバソトシンに応答する機能的な受容体であることを明らかにした。オキシトシン族ペプチドに応答する受容体や、細胞内cAMPの上昇を引き起こす受容体は存在しなかった。このことは円口類にオキシトシン族ペプチドが存在しないという事実とよく一致している。一方、軟骨魚類については、日本産トラザメの全ゲノムシーケンスを独自に進め、トラザメがV1aR、V2bR、OTRという3種類の受容体を持つことを見出した。以上のことから、遺伝子重複が起きた時期についてはさらに検討が必要なものの、軟骨魚類まではV2受容体としてV2bRのみを持ち、硬骨魚類以降ではじめてV2aRとV2bRの両者を持つようになったことが明らかとなった。一方、「機能と進化」の研究については、メダカでのノックアウト系統作成を進めた。リガンドであるバソトシンならびにイソトシンのノックアウト系統の作製に成功した他、V2aRとV2bRのノックアウトメダカ作出に成功し、27年度に表現型の解析が行えるよう準備を進めている。
2: おおむね順調に進展している
「起原と進化」に関しては、ヤツメウナギとトラザメで全ての神経葉ホルモン受容体を同定することを目的としており、計画通り達成された。ヤツメウナギについては、V1R/OTRとV2Rそれぞれ少なくとも1種類ずつがバソトシンに応答する機能的な受容体であった。残りの3種類の受容体がなぜバソトシンに応答しなかったのか、その理由については不明である。これまで我々がメダカやゾウギンザメで同定してきた神経葉ホルモン受容体は全てCHO細胞発現解析系でバソトシンやオキシトシン族ペプチドに応答しており、今回も2種類の受容体は応答している。放射性標識したバソプレシンを用いるリガンド結合能を調べることで、その原因を調べている。研究開始時点では想定していなかった、新たな受容体の発見につながる可能性もあると考えている。トラザメ全ゲノムシーケンスについては、ゲノムサイズが大きいために十分な質を持つアセンブリの取得に苦労してきたが、受容体遺伝子の同定については問題なく成功した。今後追加シーケンスを行うことで、シンテニー解析を可能にするような最終的なアセンブリの取得を目指しており、将来の軟骨魚類研究への多大な貢献が期待される。「機能と進化」についてもリガンドと受容体のノックアウト系統の確立が順調に進んでいる。26年度に導入した飼育設備が有効に活用されている。
当初の計画にしたがい、下記の通り進める。「起源と進化」の研究(1)ヤツメウナギの受容体機能解析の継続と、発現部位の同定。(2)トラザメ受容体のcDNAクローニング、機能解析、発現部位の同定、抗体の作成、生理学的解析の開始。(3)ヌタウナギのゲノムシーケンスならびにRNAシーケンスの独自リソースの整備。「機能と進化の研究」(1)メダカにおける受容体ノックアウト系統の確立と維持。(2)バソトシンとイソトシンノックアウトに加え、受容体ノックアウトによる表現系の解析。(3)ネッタイツメガエルでのV2受容体の発現部位の同定と、ノックアウト系統作製の開始。
1.神経葉ホルモンの機能解明のためには受容体の局在を知ることが不可欠であり、当初はドチザメで予備的に取得した配列情報をもとに抗体を作製するつもりであった。ただ、想定よりも早くトラザメで3種類の受容体、特に鍵となるV2bRの存在を明らかにすることができたため、トラザメの受容体全長配列を明らかにした後に、抗体の作製に取りかかることにした。2.トラザメの全ゲノムシーケンス解析にあたり、大きなゲノムサイズによるアセンブリの難しさを克服するために、26年度は技術改良に注力し、追加シーケンスを次年度にまわすことにした。
1.現在トラザメ受容体の全長配列を解析しており、5月中には解析が終了する予定である。その後すぐに抗体の作製に取りかかる(兵藤)。2.メイトペアライブラリ作成法という技術改良が完了したため、27年度早々にトラザメゲノムの追加シーケンスを行う(工樂)。
すべて 2014 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 4件) 備考 (2件)
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