研究課題
本研究では、既知のバソプレシンV2受容体(V2aR)と祖先型V2受容体(V2bR)の分子・機能進化に注目することで、脊椎動物が進化の過程でいつ・どのようにして抗利尿作用を獲得したのかという謎を明らかにすることを目的としている。「V2受容体の起原と進化」について、まず日本産トラザメで発見した3種類の受容体(V1aR、V2bR、OTR)をクローニングし、CHO細胞での発現機能解析を行った。細胞内cAMPの上昇を引き起こす受容体が存在しなかったことから、分子系統解析の結果と一致して軟骨魚類にはV2aRは存在せず、祖先型であるV2bRのみ存在することが証明された。また、円口類ヌタウナギについて、国際ゲノム解析コンソーシアムが当初期待していた通りに進んでいないため、工樂の研究室で独自にゲノムシークエンスを行った。ゲノム全体の情報整備はこれからだが、バソトシン受容体については推定 ORFの情報が得られ、カワヤツメで同定した5種類の受容体遺伝子のうち、2種類のゲノム配列を同定した。これまでの結果から、遺伝子重複が起きた時期についてはさらに検討が必要なものの、軟骨魚類まではV2受容体としてV2bRのみを持ち、硬骨魚類以降ではじめてV2aRとV2bRの両者を持つようになったことが明らかとなった。一方、「V2受容体の機能と進化」の研究については、メダカでのノックアウト系統作成を進めた。リガンドであるバソトシンならびにイソトシンのノックアウト系統の他、V2aRとV2bRのノックアウトメダカの系統化を進めている。受容体の組織分布を調べた結果、メダカのV2aRは鰓や腎臓で強く発現しており、腎臓では遠位細尿管や集合管に局在し、水電解質代謝への寄与が示唆される。一方、祖先型のV2bRの体液調節器官での発現は低かった。トラザメでは子宮の最後部に強い発現がみられており、産卵など繁殖活動への寄与が示唆される。
2: おおむね順調に進展している
「起原と進化」に関しては、ドチザメ受容体のクローニングと機能解析、ヌタウナギの受容体の同定が計画通り達成された。ヌタウナギについては国際コンソーシアムの不調により、工樂が独自にゲノムシークエンスを進めた。このことにより、バソトシン受容体が明らかになってきただけでなく、今後の進化研究にとってもその意義はきわめて大きい。これまでの成果から、軟骨魚類までは祖先型のV2bRだけを持ち、その後硬骨魚類の進化の過程でV2aRが生じたということはほぼ証明できたと考えている。平成27年度からは、「機能と進化」に関する研究ついても力を入れており、メダカとトラザメでの結果から、V2aRは鰓や腎臓といった体液調節器官に発現し、V2bRは脳や生殖器官などに発現することがわかってきた。これらの結果は、V2受容体のもともとの機能が繁殖に関係するものであり、どこかの段階で水電解質代謝への機能が付加された可能性を示唆する重要なものである。メダカでは抗体の作成も進んでおり、V2aRがネフロンの遠位細尿管や集合管に存在することが示されている。淡水魚の遠位細尿管は電解質の再吸収に重要な部位であり、これまで知られていなかった新たな機能の解明につながる成果である。並行してリガンドと受容体のノックアウト系統の確立も順調に進んでおり、今後はノックアウト系統での水電解質代謝調節機能を調べることにより、これらの成果を体系的に解釈することが可能となる。ネッタイツメガエルは平成27年度に新たに導入したため、その飼育環境の整備や繁殖による個体数の確保に時間を要したが、ノックアウト系統の作製に向けて作業を進めている。
当初の計画にしたがい、下記の通り進める。「起源と進化」の研究(1)ヌタウナギのゲノムシーケンスならびにRNAシーケンスの独自リソースの整備を継続し、ヌタウナギが持つ受容体のクローニング、CHO細胞での機能解析を行う。「機能と進化の研究」(1)メダカにおけるリガンドと受容体のノックアウト系統の確立と維持を引き続き進める。(2)各ノックアウト系統の表現系の解析。メダカにおけるバソトシンのはたらきを明らかにするため、腎臓や鰓でのトランスクリプトーム解析から、標的となる遺伝子の同定を進める。淡水環境と海水環境を移行させたときの血液中の電解質濃度、鰓や腎臓におけるイオン輸送体の発現変化に特に注目する。(3)トラザメについては、in situ hybridizationや免疫組織化学により受容体の発現部位を詳細に解析するとともに、子宮収縮を指標とするバイオアッセイ、繁殖サイクルを追った血中バソトシン濃度の測定などを進め、生理的役割を明らかにする。(4)ネッタイツメガエルでのV2受容体の発現部位の同定と、ノックアウト系統作製を開始する。
軟骨魚類での受容体の発現部位・細胞を同定するために、in situ hybridizationと抗体による免疫組織化学染色の2つを並行させるが、27年度はin situ hybridizationによる解析を先行させた。そのため、抗体の作成開始が遅くなり、27年度中の作製が一部できなかった。
すでにトラザメの機能的な受容体の全長配列は確定しており、抗体作製のための準備作業も進めている。
すべて 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 4件、 査読あり 10件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 図書 (2件) 備考 (2件)
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