研究課題/領域番号 |
26291068
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
久保 健雄 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10201469)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ミツバチ / キノコ体 / ケニヨン細胞 / 尻振りダンス / mKast / Mblk-1 / Mlr / NOL4 |
研究実績の概要 |
ミツバチは尻振りダンスにより、仲間に餌場の位置に関する情報を伝えるが、その分子・神経基盤には不明な点が多い。申請者らは最近、ミツバチ脳の高次中枢であるキノコ体が、従来考えられていた、大型と小型のケニヨン細胞に加えて、その境界域に存在し、mKastを発現する新規な「中間型」ケニヨン細胞で構成されることを発見した。また、初期応答遺伝子を用いた解析から、採餌蜂では小型と「中間型」ケニヨン細胞の一部が興奮していることを発見した。このことは、採餌飛行時の感覚情報処理に、小型と「中間型」の2種類のケニヨン細胞が関与することを示唆する。本研究では主にこの「中間型」ケニヨン細胞の機能、分化、進化の解析を通じて、ダンス言語の分子・神経基盤の一端を解明することを目的とした。 平成26年度は「中間型」ケニヨン細胞の神経投射を解析する目的でmKastに対する特異抗体を用いた蛍光抗体法を行い、脳内の特定の部域にmKastが局在することを示した。また、ミツバチでの遺伝子機能解析に向けて、ミツバチ胚を用いてCRISPR/Cas9法を試みたところ、ミツバチ胚でもゲノム編集が起きることを見いだした。一方、以前から、ミツバチと哺乳類に共通な分子・神経機構が存在するかを検証する目的で、大型ケニヨン細胞選択的転写因子Mblk-1のマウスホモログMlr (Mblk-1-related protein-1)-1と2の解析を進めてきたがが、今年度は、Mlr-1と2が、それぞれNOL4 (nucleolar protein 4)の異なるスプライスバリアントと相互作用することで、その転写活性が正または負に制御されることを示し、組織毎にMlr-1と2が異なる転写調節を受けることを示唆した。[Takayanagi-Kiya, Misawa-Hojo et al., Zool. Sci. (2014)]。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度に予定していた3つの研究項目の内、1)のリコンビナントmKastに対する特異抗体を用いた蛍光抗体法による「中間型」ケニヨン細胞の神経投射の解析は上述の通り、ほぼ予定通りの進捗状況であった。2)のケニヨン細胞のサブタイプ選択的な遺伝子発現制御機構の解析では、キノコ体選択的に発現する遺伝子の上流配列にレポーター遺伝子を繋いだコンストラクトを、エレクトロポレーション法を用いてキノコ体に導入・発現させる計画であったが、コントロールのCMVプロモーターに比べて、内在性遺伝子の上流配列のプロモーター活性が弱い若しくはその領域が十分でないため、ミツバチ脳への効率的導入・発現は達成できていない。3)の「中間型」ケニヨン細胞が、ハチ目昆虫の進化の過程でいつ出現したかの解析は、マルハナバチで一部の解析を終えたが、現在も継続中である。 一方、元々平成27年度に実施予定であった、ミツバチでの遺伝子機能解析に向けた2つの研究項目のうち、Vivoモルフォリノを用いた遺伝子機能解析は、モルフォリノによる遺伝子発現抑制がかからず、未だ奏功していないが、上述の通り、CRISPR/Cas9法を用いたゲノム編集が奏効することが判明した。具体的にはミツバチ胚にガイドRNAとCRISPR/Cas9のmRNAを顕微注入すると、胚の一部の細胞でゲノム編集が起きることが判明した。 加えて上述の通り、マウスにはMlr-1と2の2種類のMblk-1ホモログが存在するが、培養細胞を用いたルシフェラーゼアッセイを用いてこれらがNOL4の異なるスプライスバリアントとco-factorとして相互作用することで、組織毎に異なる転写調節を受ける可能性を示唆した。将来的に、ミツバチと哺乳類で共通した分子・神経基盤を理解する上で礎となる研究成果と考えている。以上、概ね計画通りの進展であったと自己点検している。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、上記2)の、エレクトロポレーション法を用いたキノコ体選択的遺伝子の発現制御の解析の項目は、当面ペンディングとし、3)のCRISPR/Cas9法を用いた遺伝子の機能解析の項目を重点的に検討する。もし、CRISPR/Cas9によるゲノム編集が実用可能になれば、ミツバチ分子行動生物学の発展に大きく寄与する。そこでCRISPR/Cas9により遺伝子編集を施した女王蜂の卵をそれぞれ雄蜂(単為生殖)と新女王蜂(野生型雄の精子を用いた人工授精により得られた受精卵から発生)に生育させ、両者を交配させることで、遺伝子欠損はホモとヘテロ型の働き蜂を得て、それらの社会性行動を調べる実験系を構築する。また、上記2)に代わる新たな研究項目として、CRISPR/Cas9を用いた外来遺伝子(gfpレポーター遺伝子)のミツバチへの導入・発現系を構築することで、キノコ体選択的遺伝子のプロモータの同定を試みる。 さらに平成27年度は、Vivoモルフォリノの研究項目に代わる新たな研究項目として、RNAiを用いた遺伝子機能解析が可能か検討する。具体的には、キノコ体選択的に発現する複数の遺伝子を標的とするsiRNAを合成し、これをキノコ体に注入することで、標的遺伝子の発現が抑制されるか調べる。巧く抑制されるようであれば、その個体の行動特性を解析する。 さらにキノコ体選択的に発現する遺伝子のホモログを、異なる社会性進化の段階にあるハチ目昆虫から同定・発現解析することで、ミツバチに存在する3種類のケニヨン細胞サブタイプが、どの社会性進化の段階で獲得されたかを検討する。具体的には、ゲノム情報の利用が可能になりつつあるハチ目昆虫(広腰類=カブラハバチ、有錐類=キョウソヤドリコバチ、有針類=マルハナバチ)について、mKastホモログを単離し、キノコ体における発現を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究費の端数(小額の未使用額)であり、特段の理由は無い。
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次年度使用額の使用計画 |
小額の未使用額であり、通常の研究費(主に物品費)として使用する。
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