ミツバチ脳の高次中枢(キノコ体)を構成するケニヨン細胞は、細胞体の位置と大きさ、遺伝子発現プロフィルにより、クラスI大型・中間型・小型とクラスIIの4つに分類できる [Kaneko et al. (2012)]。本研究では、これら4つのサブタイプ、特にmKastが選択的に発現する中間型ケニヨン細胞について、その生理機能と進化を調べることを目的とした。 1)mKastは蛹後期から発現し、脳特異的に発現した。mKastタンパク質はキノコ体の他、視葉や触角葉、食道下神経節の一部の神経細胞にも局在し、成虫の様々な脳機能への関与が示唆された [Yamane et al. (2017) in press]。 2)逆遺伝学による遺伝子機能解析を目的として、ミツバチでCRISPR/Cas9によるゲノム編集法の確立を試みた。その結果、働き蜂下咽頭腺で特異的に発現するローヤルゼリータンパク質1 (MRJP1) 遺伝子を欠失した雄蜂の作出に、世界で初めて成功した。mrjp1は雄蜂の正常発生には可欠であった [Kohno et al. (2016)]。 3)ミツバチで見られる3つのクラスIケニヨン細胞サブタイプが、ハチ目昆虫の進化のいつ獲得されたか調べるため、原始的なハバチ、寄生性のコマユバチ、真社会性のスズメバチ、ミツバチに近縁で営巣するが社会性はもたないツチバチの4種 について、キノコ体の遺伝子発現プロフィルを調べた。その結果、サブタイプはハバチで1つ、コマユバチで2つ、スズメバチ以降で3つに増えたことが判明した。サブタイプの増加は、ハチ目昆虫の行動進化と相関する可能性がある。 本研究成果は中間型ケニヨン細胞の生理機能の理解だけでなく、神経生物学一般の進展にも寄与する、国際的にも重要な成果である。本研究ではこの他、関連する原著論文を2報、総説を3報発表し、十分な研究成果が得られたと判断している。
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