研究課題/領域番号 |
26291069
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
飯野 雄一 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40192471)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 異性間相互作用 / 個体群密度 / 嗅覚可塑性 / 線虫C.elegans / フェロモン |
研究実績の概要 |
A)線虫C.elegansの雌雄同体もオスは、NaClと同時に経験した後はNaClに誘引され、NaClと飢餓を同時に経験するとNaClを忌避するようになるが、異性がいる状態でオスがNaClと飢餓を経験するとNaClに誘引されるようになる。一方、インスリン/PI3キナーゼ経路は雌雄同体においては飢餓による誘引から忌避の変化に必要不可欠である。ところオスでもインスリン/PI3キナーゼ経路がこの行動変化に必要かを調べた。その結果、オスでもインスリンins-1の欠失変異体やインスリン受容体daf-2の機能低下変異体では飢餓とNaClを経験後のNaCl忌避が起こらないことがわかった。 B)線虫C. elegansは同種の他個体からのフェロモンにより体内ペプチドSNET-1の発現が負に制御され、これにより、個体群密度が高い状態では嗅覚可塑性が上昇する。通常の実験室株はイギリス由来であるが、南太平洋のマデーラ諸島で分離されたC.elegans株はSNET-1の発現の負の制御がほとんど見られないことを発見した。さらに、この変異をマッピングしたところ、TGFβ経路の遺伝子付近に遺伝子重複があることがみつかった。 C) SNET-1の作用標的を明らかにするため、SNET-1の蛋白質が過剰になっていると推定されているnep-2変異体のサプレッサー変異を分離し、マッピングを行い、原因遺伝子をほぼ同定することができた。これは7回膜貫通型受容体の制御に関わる遺伝子であった。 D) snet-1::gfpの発現が変化する変異体を既存の変異体から探したところ、TGFβ経路の複数の変異体がこれに異常を持つことがわかり、さらにこの経路が働く組織・細胞を決定するため細胞特異的レスキュー実験を行った。しかし、いくつかの組織のいずれで発現させてもレスキューが起こるという結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
雌雄同体との個体間相互作用によるオスの異性学習については、当初インスリン経路の変異体でオスの飢餓学習に異常が観察されなかったため、インスリン経路の機能が発揮される条件を探っていた。ようやくそれを見いだしたが、ここまでの条件検討に時間を要した。しかし、他の研究計画項目についてはいずれも進展が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
A) オスの異性学習については、現在のアッセイ系を用いて異性学習が起こることを確認した上で、異性との相互作用のシグナルが感覚神経のMAPK経路の活性やインスリン受容体の局在変化に送られるのかを調べ、個体間相互作用が行動を変化させる機構に迫る。 B) マデーラ諸島株については原因遺伝子の特定を行い、野生株間の行動の違いとその遺伝基盤を調べる。 C) この遺伝子については、欠失変異体は何ら表現型を持たないことが明らかになった。得られた変異体は新たな機能を獲得した変異体と思われる。この遺伝子の解析により有益な情報が得られる確信が持てないので、解析を保留する。 D) レスキュー実験を他の遺伝子についても進めるとともに、TGFβ経路がASI感覚神経でのsnet-1の発現をどのように制御しているか、フェロモンの情報がTGFβ経路をどのように使ってsnet-1の制御をしているか、明らかにすべく解析を続ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
オスの学習において、従来の条件においてインスリン経路が働かないように見えたため、インスリン経路が働く条件を調べるのに時間を要した。その結果、次の解析に予定していた物品費を次年度に使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
MAPキナーゼ経路の活性やインスリン受容体の局在が異性との相互作用により変化するかどうかを調べる。そのために、蛍光プローブを用いたイメージングを行う。DNA合成による蛍光プローブの作製、遺伝子組換え、線虫への遺伝子導入、イメージング用の微小流路デバイスの作製、光学系の整備、光学測定実験の実施などに物品費を宛てる。
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