研究課題
本研究は、修飾ヒストン特異的抗体や様々な機能を付加した一本鎖可変領域抗体(scFv; single-chain variable fragment)を細胞に導入することで、個々のヒストン修飾を標的とした解析を行い、遺伝子発現とクロマチン制御におけるヒストン修飾の意義について理解することを目的として行っている。本年度は、分裂期におけるヒストンH3リン酸化の意義を明らかにするため、リン酸化特異的Fabを導入し、染色体分配に対する影響を観察した。昨年度に見られたIgGによる影響とは異なり、Fabの場合には分配異常は見られなかった。従って、一定量のリン酸化をマスクしただけでは分裂に影響しないと考えられた。一方、リン酸化ヒストンと共に免疫沈降される蛋白質を質量分析で探索したところ、いくつかの候補が得られた。そのうちの一つは、アセチル化リジンと結合するブロモドメインを持つ蛋白質であり、この蛋白質のクロマチン結合の解析を行った。リン酸化される部位のセリンやスレオニンをアラニンに置換したヒストンH3との結合を解析したところ、どの部位の変異も結合には影響しなかった。現在、この蛋白質の機能を解析中である。一方、新規mintbody(modification-specific intracellular antibody)の開発のために、多数のハイブリドーマからscFvをクローニングし、scGFP融合蛋白質として細胞中での発現を行った。その結果、ヒストンH4K20ジメチルや転写伸長型RNAポリメラーゼIIに特徴的なリン酸化等を特異的に認識するプローブが得られた。さらに、オリジナルクローンにいくつかのアミノ酸変異を導入することでH3K27me3特異的mintbodyの発現に成功した。
3: やや遅れている
リン酸化抗体の導入による染色体分配の阻害はFabでは見られず、ブロッキング実験は容易ではないことが分かった。また、免疫沈降により同定された蛋白質のクロマチン結合にヒストンのリン酸化は必須ではなさそうである。一方、mintbodyの開発は順調に進んでいる。
さらに多数のヒストン修飾抗体を用いた解析と人工プローブ作製による解析を行っていくことで、目標を達成したいと考えている。
研究代表者は、H28年11に研究室の場所を学内の別な建物に移動し、その準備と再セットアップのため2ヶ月以上顕微鏡を用いた解析や培養細胞を用いる実験が中断された。結果的に、当初想定していたよりも数ヶ月の遅れが生じた。
次年度使用額は、消耗品に充当し、速やかに実験を進める。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 4件) 備考 (3件)
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