研究課題
この研究費では主に二つのテーマを取り扱った。一つはレトロポゾンの一種であるSINEの機能の問題である。もう一つは闘魚を用いて、戦いの分析を分子生物学的観点から遂行した。1)AmnSINE1の座位であるAS3_9を含む領域がWint5aのエンハンサーであることは我々の研究室で兼ねてから明らかにされてきた。今回、この領域が実は三つの領域から構成されていることが明らかになった。AmnSINE1, X6b_DNA, MER117の三つである。2)進化のプロセスを考えたところ、AmnSINE1が最もい古く哺乳動物の共通祖先で挿入され、その後単孔類の分岐後, X6b_DNAが挿入され、真獣類の祖先で最後にMER117が挿入された。二次口蓋はこの三つが揃って初めて形成される。3)AmnSINE1が最初に挿入された時にはWint5aに関しては機能を持たないがその後の他の二つの転移因子の挿入によって初めて真獣類の共通祖先で機能を持ったということになる。このようなことなる転移因子の組み合わせが一つのエンハンサー活性を作っているというのは初めての例である。4)闘魚を用いて、戦いを分析する系を構築した。60分の戦いの行動分析から、対戦相手同士の行動が同調するという現象が見出された。闘魚にはmouth-lockingというお互いが取っ組み合いの喧嘩をするような行動が知られていて、この頻度、長さ、分布が戦いを特徴づけていると考えられる。5)各段階から転写産物の配列を決定し、其の転写量の相関係数を調べることで、対戦相手同士の転写産物が同調しているという現象が見出された。これは対戦相手が同じように考え、それが同じような行動に転化され、さらにそれが転写産物の同調という現象として見出されたということであろう。このような行動が同調するという現象は世界で初めての発見である。
1: 当初の計画以上に進展している
SINEの研究、闘魚の研究とも、思わぬ新しい発見があった。SINEについてはPlosGenetに論文を発表した。闘魚研究については現在論文を完成し、これから投稿という段階である。
SINE研究は東工大を定年で退職したのに伴い継続できなくなった。闘魚研究はFAISで継続中。現在論文を作成中。新しい展開としては、戦いに傍観者を混ぜた時にどのような転写の変化が起こるかということを考えていて、このような「傍観者問題」は将来の面白いテーマである。
論文を作るのに思いの外時間がかかった。
論文投稿料
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 図書 (1件)
PLOS Genetics
巻: October ページ: 1-17
:10.1371/journal.pgen.1006380
Scientific Reports
巻: July ページ: 1-10
10.1038/srep30580