研究課題
本年度は初年度として,研究対象とするべき菌群について整理すると同時に,海外との共同研究の調整を行った。日本産のMollisia属菌に注目して,米国産の材料と合わせて系統解析を行った結果,日本産の材料のみからなる複数のクレードが得られた。アジア特異的な菌の分布を示唆するものと考えられ,興味深い。これらの一部には,ツツジ科の植物に感染して菌根を形成し,植物の成長を助長するものがあることが明らかになった。また,調査の結果得られた日本新産種3種の発表を行った。日本産ブナ属植物の寄生菌は、よほど顕著な形態的差異が認められない限りヨーロッパ産の菌種と同種であると判断されることが多い。しかし、宿主植物や地理的分布が異なる菌を同種とすることには疑問が残る。そこで、元来ヨーロッパにおいてヨーロッパブナから記載された種であるが、日本のブナ属からも報告されている Asterosporium asterospermum および Cheirospora botryospora について、ヨーロッパブナおよび日本産ブナ類(ブナ、イヌブナ、タケシマブナ)から分離した菌株を分子(ITS-nrDNA,beta-tubulin)および形態データに基づき比較した。その結果、広義 A. asterospermumには、ヨーロッパブナ寄生系統 (狭義の A. asterospermum) とは別の、ブナ寄生系統およびイヌブナ・タケシマブナ寄生系統が見いだされた。また、広義 C. botryosporaには、ヨーロッパブナ寄生系統 (狭義の C. botryospora) のほか、日本独自の系統群として少なくとも4系統が見いだされた。これら2菌にみられた各系統群は、それぞれ別種である可能性が高く、日本におけるブナ属寄生菌の種構成はヨーロッパのものと大きく異なっていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
材料の収集・解析ともに、順調に推移しており、今後の展開に期待が持てる。新産種・新種などの情報も蓄積されている。
引き続き、国内における採集を継続するとともに、初年度の連携関係を活かして海外における採集も行なう。材料の培養、アナモルフによる培養検討も継続し、その分類学的位置を決定する。また、培養からのDNA抽出とバーコード領域のシークエンスを進める。未同定種も含めて、標本が担保されているものについてのデータベースを作成し、公開する。
学会役員等の事情のため、海外での採集による試料の入手と解析などの実施に遅延が生じた。
次年度に採集を実施したく、それに伴う研究活動を繰り越したい。ヨーロッパ(スイス)への採集に関して約100万、DNA解析などに伴う物品として80万、シークエンス解析に要する人件費として100万、荷物や物品の移送などについて20万円を見込む。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 7件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件)
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