適応のダイナミクスと生態のダイナミクスが密接に関連する「生態-適応フィードバック」の理解を、「種内多様性の具体性」の新しい視点から深化させることを目的としている。具体的には、以下の三つの研究課題を設けている。【研究1】種内変異の具体的な分布パターンにより異なると予測される生態-適応フィードバックの実態解明、【研究2】複数形質の関係(トレードオフvs.シナジー)がもたらす生態-適応フィードバックの改変の理解、【研究3】環境変動の時間スケールに依存する適応メカニズム(進化vs.可塑性)の重要性と生態-適応フィードバックへの影響の理解、である。 平成27年度の成果について以下にまとめる。 【研究1】この研究については予定より早く進捗して成果がでており、当年度に実施する内容はなかった。 【研究2】イカダモ(緑藻)の誘導防衛として、群体形成と集塊形成の2つの防衛形質があることが判明し、防衛能力・増殖速度・沈降速度に見られるトレードオフの存在が明らかとなった。特に、集塊形成は、被食防衛で大きく有利であるものの、沈降速度が大幅に高くなるコストがあることがわかった。複数形質のトレードオフ関係が明らかになったものの、それが生態-適応フィードバックに与える影響については検討できなかった。 【研究3】異なる時間スケールの環境変動に対する適応メカニズムの差異が、どのような生態―適応フィードバックをつくるかについて、数理モデルにより研究した。環境変動の時間スケールに応じて、進化と可塑性の有利さが変化することがわかった。時間スケールが短いか長いと進化が有利であったが、中程度のときは可塑性が有利となった。この結果は、変動環境下において必ずしも可塑性が有利とはならないことを示しており、従来の考えに変更を迫るものである。
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