研究課題/領域番号 |
26291090
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
市野 隆雄 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (20176291)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 種間関係 / 共進化 / アリ / アブラムシ / 捕食 / 種特異性 / 地域適応 / 対抗進化 |
研究実績の概要 |
1. 東日本を中心にクチナガオオアブラムシ属の種を採集し、寄主植物種への特異性と随伴アリ種への特異性を調べた。その結果、1)クチナガオオアブラムシ属の多くの種が、それぞれほぼ1種の寄主植物を利用していること、2)クチナガオオアブラムシ属のすべての種が、ほぼケアリ属とのみ共生関係を結んでいること、3)地域によってケアリ亜属と主に共生している地域とクサアリ亜属と主に共生している地域があることをそれぞれ明らかにした。 2. クヌギクチナガオオアブラムシにおける甘露排出は共生アリからの捕食を避ける機能をもつことが知られている。甘露排出数を様々な環境下において調べた結果、甘露排出数は気温およびアブラムシの体長に強く相関することが明らかになった。 3. ササコナフキツノアブラムシの通常個体は、捕食者であるゴイシシジミ幼虫に襲われると警報フェロモンを分泌して捕食者にこれが付着し、兵隊アブラムシ個体がこのフェロモンに対して攻撃行動をおこなう。一方、ゴイシシジミ幼虫は、アブラムシの体表面ワックスを自身の体毛によって奪い取ることが知られている。そこで兵隊に対し、A)同種他個体の体表面ワックスと警報フェロモンの混合物、もしくはB)警報フェロモン単体を提示し、その攻撃頻度を比較した。その結果、兵隊はA)よりもB)に対して有意に強い攻撃行動を示した。このことは、ゴイシシジミ幼虫が(アブラムシ体表面ワックスの獲得による)化学擬態をすることでアブラムシの防衛戦略に対抗していることを示唆している。 4. 兵隊アブラムシ個体の防衛行動が進化するには、集団内の高い血縁度が必要であるとされてきた。そこでササコナフキツノアブラムシの集団内の遺伝的多様性をAFLP法によって調べた結果、5集団の57個体は遺伝的に異なる12のクローンに分類され、同一集団に最大7クローンが共存しクローン混合が起こっていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
共進化の地理的モザイクを検証する上では、まず相互作用をむすぶ生物群間の種特異性を明らかにすることが重要である。この点について、日本全国から精力的にサンプリングを行うことによりクチナガオオアブラムシ属の寄主植物と共生アリとの種特異性を明らかにすることができた。またササコナフキツノアブラムシと捕食者の対抗進化を明らかにする上で重要な形質である警報フェロモンと体表面ワックスの基本的な機能を明らかにすることができた。いずれも、今後の研究進展に向けての基礎を確立したと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
地域間の共生アリ種の違いが、クチナガオオアブラムシ類の排泄する甘露成分と体表面化学物質の組成にどのような影響を与えているかの検証を行う。優占するアリ種の異なる地域で、それぞれアブラムシの排泄する甘露を採集し、甘露に含まれる糖成分の違いがアリ種の糖選好性の違いと一致するかを検証する。またアブラムシの体表面化学物質が、その地域で優占するアリ種の体表面化学物質と類似しているかも検証する。 ササコナフキツノアブラムシと捕食者の系において、それぞれの形質の機能についての理解を深めるとともに、捕食者と被食者の形質サイズの地理的変異が相関することを明らかにしていく。特に、兵隊アブラムシ個体の武器サイズと捕食者の卵サイズに注目して研究を推進していくことを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画で見込んだよりも安価に研究を進めることが出来たため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は平成27年度に消耗品費および人件費と合わせて使用する。
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備考 |
クチナガオオアブラムシ類は長さ2センチ以上の口吻を樹幹に刺して吸汁するため、外敵に攻撃されても逃げられない。このため、アブラムシは共生アリに守ってもらっている。しかしこの共生アリは時にはアブラムシを捕食することがある。アリはアブラムシに自らの体表面物質で目印を付けて選択的に捕食することがわかってきた。一方でアブラムシは、アリからの捕食を回避するためアリの体表面物質と似た化学物質を分泌している。
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