研究課題
当該年度は、①歩行移動距離選抜系統間の雌雄における繁殖形質の比較解析、②系統間の分子遺伝解析、③捕食選択圧をかけた集団と捕食圧のない集団で活動性及び不動行動の継代的な変化解析、④アクドグラフ装置を用いた活動性の高低に対する人為選抜実験、系統間での繁殖形質や形態形質の比較、⑤ランダム歩行軌跡の解析の準備を行った。①については、歩行移動距離の長い系統(LD)と短い系統(SD)を選抜した系統間でメスが産んだ子を比較した。LD系統がSD系統に比べて有意に多くの子を残した。②では不動に対して人為選択を行った結果、不動時間の長くなった系統と短くなった系統において、ドーパミンを含むカテコールアミン類などの生体アミンの合成酵素遺伝子や受容体遺伝子、およびそれらのシグナル伝達系に関わる遺伝子の発現について、RNA Seq.法によって解析した。その結果、ドーパミン合成経路、インシュリンシグナリング系などの複数の遺伝子制御領域において系統間で発現の違いが確認された。③については、昨年度に引き続き、コメグラサシガメをモデル捕食者として、捕食者が存在する条件と、捕食者が存在しない条件におけるコクヌストモドキ集団の行動の変化を2世代にわたって観察した。その結果、処理系統とコントロール系統間の活動性に差が見られ、昨年の結果とは異なり、処理系統において活動性が高い傾向が確認された。④については、これまではカラートラッカー(自動軌跡追跡装置)を用いて、歩行距離の長い系統と短い系統を選抜していたが、この機械では30分間の移動しか解析できないため、生物の「動き」の基盤を選抜するにあたりより質の異なる動きを抽出するために、アクトグラフセンサーを用いて、コクヌストモドキの活動量自体に人為選抜をかけることを開始した。⑤については、系統間で歩行軌跡に差が見られ、その差を生じさせた原因について調査中である。
1: 当初の計画以上に進展している
計画した研究はおおむねすべて順調に遂行している。活動性に対する人為選択実験、捕食者存在下での被食者生物としてのコクヌストモドキの対捕食者回避の進化実験、動きの異なる系統間でのアミン類の発現解析、RNA発現解析による全ゲノムの網羅的RNA発現解析と、DNA配列のリシークエンス解析を終了している。今年度は次世代シーケンサーにより不動系統と常動系統の全遺伝子の比較を行った結果、いくつかの遺伝子パスウェイにおいて、遺伝子発現に系統間で有意差が確認された。また日本全国より、野外のコクヌストモドキ野生集団を採集してきており、今後は捕食者と野生集団における対捕食者戦略の地理的変異について研究を開始できる。この研究成果は当初の計画を上回ペースの進捗状況である。
系統間でいくつかの遺伝子パスウェイに有意な遺伝子発現の差が見られたため、今後は標的候補遺伝子について次々とRNA干渉実験を行い、生物の動きを左右する候補遺伝子を探索する。それと同時に、進化実験において対捕食者回避行動に進化的応答が見られたため、野外での対捕食者回避の動態と照らし合わせて、進化と生態と分子の関係について、新たな研究領域の開拓を目指す。さらに系統間の歩行活動をより正確に調べるため、全方向球体型移動補償装置を用いて、コクヌストモドキの自由歩行軌跡を解析する。この解析のために、工学系の研究者2人を新たに研究分担者として加える。また日本全国より、野外のコクヌストモドキ野生集団を採集してきており、今後は捕食者と野生集団における対捕食者戦略の地理的変異についても研究を進める。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (3件)
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