本研究は、一種類のウイルスに対して異なる感染応答をする個体を含む群集が、長期間の共存を果たすメカニズムを解明することを目的として発案した。モデルとしては、単細胞藻である赤潮原因藻ヘテロシグマ(学名 Heterosigma akashiwo)と、ヘテロシグマに特異的に感染するHeterosigma akashiwo virus (HaV)を用いた。これまでに、異なる海域から採取された複数のヘテロシグマ株がHaV感染に対して示す応答を調べたところ、HaVに感染し、2日ほどで溶藻する(宿主は死滅)する株、HaVに感染しない株、感染するが、ウイルスゲノム量が低レベルに抑えられ、感染が持続するものの溶藻せず、増殖速度も変化しない株、感染するが、数日でウイルス消滅する宿主株などが見られた。研究開始当初は、これらの株に対するウイルス感染性は、宿主遺伝型により決定されると考えていたが、その後の研究で、それぞれの株が、異なる細菌を随伴していたこと、これらの随伴細菌の有無でウイルス感染に対する応答が大きく変化することが明らかになった。 上記の研究と並行して、ウイルスゲノム解読・遺伝子予測・ウイルス感染過程の精査を行った。HaVは、大型二本鎖DNAをゲノムとして持つウイルスの一つであり、他にも単離されている藻類に感染する大型二本鎖DNAとともにPhycodnaviridaeファミリーとして分類されてきた。他のウイルスとの配列比較により、HaVは、Phycodnaviridaeにおいて特徴的な位置を占める、ユニークなウイルスであることが明らかとなった。 また、 宿主ヘテロシグマを識別するための遺伝子バーコード配列を決定する試みを同時に行ったところ、ヘテロシグマのミトコンドリアゲノム上に、超可変領域を見出し、さらに、この配列が株の産海域マーカーとして利用可能であることが明らかとなった。
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