研究課題/領域番号 |
26291096
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
中山 一大 自治医科大学, 医学部, 講師 (90433581)
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研究分担者 |
渡邉 和寿 自治医科大学, 医学部, 助教 (60724416)
大橋 順 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80301141)
西村 貴孝 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (80713148)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ゲノム / 肥満 / 寒冷適応 / 進化 / 東アジア |
研究実績の概要 |
本年度は、北方系集団としてモンゴル人、日本人・中国漢人、南方系集団としてタイ人、パラオ人を対象として、北方集団で顕著に認められる正の自然選択の痕跡をゲノムワイドに探索した。その結果、 特に北方に位置するモンゴル人において著明な正の自然選択の痕跡を認めるゲノム領域計9個を同定した。その中には、既知の肥満関連遺伝子の他に、げっ歯類で褐色脂肪細胞の分化・機能に関与していることが報告されている遺伝子も含まれていた。現在は、日本人3013名をはじめとした東アジア・オセアニア人の大規模ゲノムコホートを用いて、当該領域に含まれるSNP遺伝型と肥満形質との関連を検討中である。 内臓脂肪面積は全身のエネルギーバランスに応じて素早く増減するため、ボディマス指標などで表される全身の肥満度に比べて、熱産生に関連する遺伝子多型の影響を強く受けていることを、UCP1 -3826G/Aを対象とした研究で既に報告している。かねてからヒトの寒冷適応への関与が指摘されてきたSNPであるUCP3-55C/TとRPTOR-26934C/Tについて、日本人3013名のゲノムコホートを用いて内臓脂肪面積との関連を調査した。その結果、これら2つのSNPの内臓脂肪面積への影響は観察されなかった。また、先の北方系アジア人でRPTORおよびUCP3周辺のハプロタイプ構造を調査した結果、自然選択の関与を示唆する多様性パターンは認められなかったことから、両SNPの寒冷適応形質への寄与は当初の想定よりも弱いと考えられた。 加えて、日本人の内臓脂肪面積に強い影響を与える新規の遺伝子多型として、消化管ホルモンであるGIPの遺伝子近傍のSNPを同定した。GIPには脂肪蓄積を促す作用がある一方、げっ歯類で寒冷刺激に対する代謝適応機構に関与していることが報告されているので、ヒトの寒冷適応機構での役割についても今後検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゲノムワイドなSNP情報を用いた進化遺伝学的解析により、寒冷適応に寄与したと考えられる興味深い遺伝子が複数捕捉できており、平成27年度以降の研究が当初の計画どおりに進行する算段が高くなった。また、いくつかの候補遺伝子解析でも一定の成果を挙げている。生理人類学実験の準備に少々の遅延があったが、次年度で十分に対応可能である。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度で得られた、寒冷適応遺伝子多型の候補について、東アジア・オセアニア人の大規模ゲノムコホートを用いて、肥満形質との関連解析を行う。表現型との強い関連が認められた多型については、分子生物学・細胞生物学的手法を用いてその機能的意義を明らかにする。さらに、これらの遺伝子多型と寒冷適応能との関連を、人工気候室を用いた生理人類学実験により実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
未使用額を用いて南方系アジア人であるタイ人のゲノムワイドSNP情報をさらに追加で48人分取得する予定だったが、公共データベース上で中国南部のタイ族のゲノムワイドSNP情報が利用可能になったために、タイピングを実施しなかった。加えて、生理人類学実験の準備が予定より遅れたので、これの費用も次年度使用とした。
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次年度使用額の使用計画 |
データベースから入手できるSNPデータセットが1集団につき概ね100人程度なのに対し、本課題で新たにタイピングしたモンゴル人のSNPデータは48人分なので、サンプルサイズのバランスを取るためにモンゴル人の追加48人分のゲノムワイドSNP解析費用に充てる。また、生理人類学実験の準備に充てる。
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