本研究は寒冷環境下における熱産生反応を非ふるえ熱産生とふるえ熱産生に分けて評価する方法を確立し、各個人の熱産生反応を非ふるえおよびふるえ熱産生の発現パターンから個人差およびその影響要因を検討することを目的として実施した。 本年度は、昨年度までに実施した全身寒冷曝露実験により得られたデータおよび身体計測データから、全身寒冷曝露に対する熱産生反応の個体間変動(個人差)の評価および反応パターン分類の分析を実施した。全身寒冷曝露実験は、Tシャツおよび短パン(約0.3クロ)を着用し、気温28℃に制御した人工気候室にて60分間の安静を保った後、70分間かけて気温を5℃まで低下し、その後20分間5℃を維持した。その際の湿度は50%RHに制御した。気温の低下開始10分前から生理指標の測定を行った。寒冷時の熱産生量は、呼気ガス分析より得られた酸素摂取量および二酸化炭素排出量の値から定量化し、前年度までに確立した手法を用いて非ふるえ熱産生およびふるえ熱産生に分割して検討した。その結果、ふるえ開始前に産熱亢進が生じるタイプ、ふるえ開始と同時に産熱亢進が生じるタイプが確認された。ふるえ開始前に産熱亢進が生じるタイプの被験者において、褐色脂肪が存在すると考えられている部位の皮下組織温の低下抑制または上昇が観察された群とその部位の皮下組織温低下が褐色脂肪の存在しない部位の皮下組織温と同様であった群が確認され、それぞれ褐色脂肪による非ふるえ産熱タイプ、褐色脂肪以外の効果器による非ふるえ産熱タイプと分類できた。以上のことから、寒冷環境下での産熱反応における生理的多型性に関して、ふるえ開始と同時に産熱亢進が観察されたふるえ産熱タイプと合わせて少なくとも3つのタイプに分類可能であることが示唆された。
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