研究課題/領域番号 |
26291098
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
勝浦 哲夫 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00038986)
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研究分担者 |
下村 義弘 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60323432)
李 スミン 千葉大学, 環境健康フィールド科学センター, 助教 (90600429)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生理人類学 / 単波長パルス光 / 非視覚作用 / 内因性光感受性網膜神経節細胞 / 錐体 |
研究実績の概要 |
色覚正常な青年男性12名を被験者とした。実験光は発光ダイオード(LED)を内部に設置した積分球(タカノ製)から照射した。被験者は積分球の開口部から積分球内を注視した。背景光には白熱電球(輝度30 cd/m^2)を用い,刺激光には青色LED(ピーク波長:464 nm,光量子密度1.6 x 10^15 photons/cm^2/s),緑色LED(526 nm, 1.6 x 10^15 photons/cm^2/s)を用いて単独(青条件,緑条件),および青色+緑色の2色同時(青+緑条件)に照射した。背景光は常時点灯し,刺激光のパルス幅は2.5 msとした。 明順応の後に,赤外線瞳孔カメラを用いてパルス光照射時の瞳孔径を計測し,最大縮瞳率などを求めた。その後,誘発反応記録装置(PuREC)と皮膚電極を用いて網膜電図を測定した。脳波はパルス光に対する視覚誘発電位を求めた。主観評価は青みスコア,緑みスコアを測定した。 網膜電図のa波振幅に対するb波振幅(b/a)は,青+緑条件では青条件より放射強度が2倍にもかかわらず,有意に小さくなった。最大縮瞳率においても青+緑条件で青条件より有意に縮瞳が抑制されることが示された。また,視覚誘発電位のP100成分の振幅はFz, C3, およびCzにおいて青+緑条件で青条件より有意に大きくなることが示された。主観評価では青みスコア,緑みスコア共に青+緑条件と青条件に有意差は認められなかった。 以上のことより,青色光によって生ずる縮瞳などの非視覚作用は緑色光の同時照射によって抑制され,いわゆる劣加法性が生ずることが確認された。網膜電図の結果より,錐体の反応を示すa波には劣加法性は見られず,双極細胞などの働きを反映するb/aに劣加法性が示されたことから,錐体からの信号が双極細胞から内因性光感受性網膜神経節細胞に伝達される間に生じている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は,光刺激装置の積分球および制御回路を新たに製作し,実験精度を上げることができた。また,網膜電図を皮膚電極によって非侵襲的に測定する手法を確立することが出来た点も本研究課題の達成ための重要な成果である。本研究は,単波長パルス光を用いて瞳孔径,網膜電図,視覚誘発電位などの生理反応を測定し,非視覚作用に及ぼす錐体の影響を視細胞レベル,大脳皮質レベルから検討するという世界でも例のない極めて独創的なものである。本年度の研究によって,青色光によってもたらされる縮瞳などの非視覚作用が緑色光の同時照射によって抑制されるという光の劣加法的反応が,網膜の双極細胞から網膜神経節細胞の間で起こっている可能性を明らかにした点は重要な成果であり,当初の計画以上に進展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度も本年度に引き続き,各種単波長パルス光を用いて単独照射,同時照射時の瞳孔径,網膜電図,視覚誘発電位などの生理反応と,VAS法による主観評価などを実施する予定である。来年度は単波長光として赤色光などを加えること,さらに各種生理反応の個人差,個人内変動についても検討することを計画している。個人差に関しては必要があればメラノプシン遺伝子の1塩基多型についても検討することを計画している。 また,光刺激制御回路のさらなる改良,瞳孔径測定装置の改善なども行い本研究の実験精度を高めていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,研究成果を発表する国際会議が国内および中国と近場であったことで旅費の支出を抑えることができたこと,データ解析等の資料整理補助にかかわる謝金が学生の協力により本研究補助金を使用しなかったことなどにより,支出を抑えることができた。なお,研究成果は十分に挙げることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度は,研究成果を発表するために米国で開催されるSociety for Lighting Treatment & Biological Rhythms 27th Annual Meetingなどに参加する予定であり,旅費の支出が増加する見込みである。来年度は本研究のさらなる推進のために特任研究員を雇うことも計画しており人件費・謝金の支出も増加する見込みである。また,個人差に関しては必要があればメラノプシン遺伝子の1塩基多型についても検討することを計画しており,そのための分析費用の相当の支出も見込まれる。
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