研究実績の概要 |
F1ハイブリッドライスの育種に使われる雄性不稔性細胞質の多様化とF1採種効率の良い育種母本を育成するための分子基盤を構築することを目的とした。農業生物資源ジーンバンクNIASコアコレクション世界のイネ(WRC)69品種を材料とし、ハイブリッドライスを育種するための重要形質として、雄性不稔性について調査した。 WRCの各系統に台中65号(T65)の戻し交雑を行うことで核置換系統を作出し、CMSの形質が現れるかを調査した。 WRC20, WRC27, WRC36の戻し交雑後代は、新規の細胞質雄性不稔性を示すことを明らかにした。ミトコンドリア遺伝子を調査したところ、新規orf312を保持することを明らかにした。ORF312のC末端側半分はWA-CMSの原因因子とされるORF352と97%の相同性を示した。新規orf312がWRC20, WRC27, WRC36に由来するCMS原因遺伝子と考えられた。 WRC41に台中65号(T65)の戻し交雑して得られたCMS系統では、ミトコンドリアにORF79が蓄積するが、WRC41に由来する稔性回復系統では、orf79 RNAの分解による転写後制御が見られることを明らかにした。稔性回復遺伝子のマッピングを進めたところ、第2染色体の877 kb(日本晴相当)に絞り込んだ。この領域にはRf2が座乗しているが、塩基配列が非機能型を示したため、Rf2とは異なる新規の稔性回復遺伝子が存在する可能性が示唆された。 WRC23に由来する雄性不稔性は、核遺伝子支配のドミナントな雄性不稔性と考えられた。雄性不稔性遺伝子のマッピングを行い、候補領域を第10染色体の3,773 kb(日本晴相当)に絞り込んだ。ドミナント雄性不稔性イネは、循環選抜育種へも利用できると期待される。
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