本研究では、栽培イネ誕生のきっかけとなったと考えられる穂の開閉に関する遺伝子の調節機構の解明ならびに穂の開閉に物理的に関与する種子の芒と受精に関する花器官の影響について調査し、イネの栽培化初期の実態を明らかにすることを目的としている。本年度は、野生イネO. rufipogon W630、栽培イネO. sativa Nipponbare、およびそれらの交雑後代系統を用いて、以下の3つの項目について形質調査ならびに遺伝子解析を行った。 1.穂の開閉の原因遺伝子であるOsLG1遺伝子の発現調節機構の解明:野生イネおよび栽培イネの遺伝的背景においてOsLG1遺伝子領域付近で組み換えを起こした個体の自殖後代から組み換え染色体をホモ型に持つ個体を選抜した。これらの系統を用いて、出穂後の一次枝梗の基部のOsLG1の発現を両親と比較したところ、どちらの遺伝的背景においても野生イネの染色体断片にOsLG1遺伝子の発現調節領域が含まれることが示唆された。 2.穂の開閉に関与するOsLG1遺伝子以外の新たな遺伝子の同定:野生イネの遺伝的背景において、以前推定されたQTL領域をヘテロ型で持つ個体の自殖後代を調べ、18個体の組換え体を得た。これらの穂の形態とマーカーの遺伝子型を比較することにより、QTLは第5染色体上の約43 kbに存在することが示唆された。 3.芒の長さを支配する遺伝子の同定:野生イネの遺伝的背景において,第4および第8染色体上に座乗する芒の長さに関するQTL座の特定の遺伝子型の組み合わせを持つ個体を幼苗期に選抜し、出穂期に芒の長さを比較することにより栽培イネの対立遺伝子の効果を検証した。また、最近報告された芒の遺伝子座An-1およびRAE2の塩基配列を両親間で比較したところ、第4および第8染色体上のQTLはこれらと同座であることが示された。
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