研究課題
植物が病原菌を認識して生体防御機構を始動すると、活性酸素種 (ROS) の生産や細胞死を伴った激しい免疫応答が誘導される。この誘導過程には、防御応答に関与するMAPキナーゼであるSIPKが関与することが報告されてきた。しかし、ROS生産や細胞死を伴う免疫応答の誘導機構の全容は未だ明らかとなっていない。これまでに、SIPKの基質である複数のWRKY型転写因子を単離してきた。各WRKY型転写因子を単独でベンサミアナ葉に過剰発現させることによって、WRKY8はNADPHオキシダーゼであるNbRBOHBの転写活性化を伴うROS生産と細胞死を誘導すること、WRKY14はROSを生産することなく激しい細胞死を誘導することを見出した。一方でWRKY13は、ROSおよび細胞死ともに誘導しないため、ネガティブコントロールとして用いた。本研究では、WRKY8、WRKY13およびWRKY14の下流遺伝子を比較することによってデータベースを構築し、遺伝子破壊システムを駆使して免疫応答の制御機構を明らかにすることを目的とした。今年度は、次世代シークエンサーによるRNA-seq解析を行うことによって、これらWRKYの下流の遺伝子を網羅的に探索した。構築したデータベースを比較検討し、WRKY13で誘導される遺伝子を除くことでWRKY8とWRKY14によって顕著に誘導される約200の遺伝子を抽出した。それら候補遺伝子は、ROS生産および細胞死の誘導に関与すると思われる遺伝子群を含んでいた。実際に、得られた遺伝子群のうち約50遺伝子の発現をリアルタイムPCRによって評価したところ、6割の遺伝子の発現誘導の再現性が確認された。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、MAPキナーゼの基質であるWRKY8、13、14の下流の遺伝子を網羅的に探索し、データベースを構築することを目的とした。これらWRKYは、リン酸化部位に疑似リン酸化変異を施すことで下流の応答が亢進される。したがって、WRKYの擬似リン酸化変異体を一過的に導入したベンサミアナ葉を用いて、次世代シークエンサーによるRNA-seq解析を行った。その結果、WRKY下流の候補遺伝子として既知の防御関連遺伝子を含む多くの遺伝子が得られた。それら候補遺伝子は、複数のWRKYにより重複して発現を制御される遺伝子と、より特異的に制御される遺伝子が見出された。各WRKYの性質の違いから、ROS生産および細胞死の誘導に関与する遺伝子群を推察することができた。実際に、WRKY8とWRKY14によって著しく誘導される遺伝子群のうち約50遺伝子の発現をリアルタイムPCRによって評価したところ、6割の遺伝子の発現誘導の再現性が確認された。
平成27年度は、当初ChIP-seq (クロマチン免疫沈降シークエンス) 解析によってWRKY8または14に直接結合するDNAを探索する予定であった。しかし、現時点においてはベンサミアナタバコのゲノム配列データ情報が十分整備されていないため、ChIP-seq解析で得られるデータが制限されると予想された。そこで本年度は、26年度に得られたRNA-seqデータをより確実なものとするために、さらに反復することでより正確なデータを構築することとした。WRKY8および14の下流で誘導されると予想される約200の遺伝子をさらに絞り込み、活性型、非活性型WRKY変異体をベンサミアナ葉に発現させ、qRT-PCRによって下流の制御遺伝子を探索する。さらに、遺伝子の過剰発現におけるアーティファクトも考慮し、各WRKY遺伝子の自身プロモーターも併せて用いる予定である。
平成27年度は、当初ChIP-seq (クロマチン免疫沈降シークエンス) 解析によってWRKY8または14に直接結合するDNAを探索する予定であった。しかし、現時点においてはベンサミアナタバコのゲノム配列データ情報が十分整備されていないため、ChIP-seq解析で得られるデータが制限されると予想された。そこで27年度は、26年度に得られたRNA-seqデータをより確実なものとするために、さらに反復することでより正確なデータを構築することとしたため、一部予算を繰り越した。
多サンプルのRNA-seqデータを取得するためにRNA試料を準備しており、順次遂行する予定である。
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日本植物病理学会報
巻: 81 ページ: 1-8.
Briefings in Functional Genomics
巻: 14 ページ: in press
doi: 10.1093/bfgp/elv004
Cell
巻: in press ページ: in press
http://www.agr.nagoya-u.ac.jp/%7ebio4283/index.html