研究課題/領域番号 |
26292024
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
竹本 大吾 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (30456587)
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研究分担者 |
近藤 竜彦 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (30362289)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 病害抵抗性 / ジャガイモ疫病菌 / ベンサミアナ / 分泌タンパク質 |
研究実績の概要 |
ジャガイモ疫病菌は、世界4大作物の1つであるジャガイモの難防除病原菌である。タバコ野生種であるベンサミアナの成熟個体は全ての疫病菌レースに抵抗性であり、その解析により恒久的なジャガイモ疫病菌抵抗性機構が明らかに出来ると考えられた。TRVを介したベンサミアナのランダムな遺伝子をサイレンシングした株群を作出し、疫病菌抵抗性が低下する株の選抜により、分泌ペプチド(SAR8.2m)遺伝子を単離した。SAR8.2mの発現を抑制した株では、疫病菌が植物個体全体に進展する。本研究では、昨年度まで様々な病原菌におけるSAR8.2m の役割を調査し、SAR8.2mサイレンシング株においてダイズ茎疫病菌、灰色かび病菌、ウリ類炭疽病菌および青枯病菌に対する抵抗性は対照株と同等であることを示した。本年度は、さらにジャガイモ疫病菌の近縁種である、タバコ疫病菌、ツノナス疫病菌などについて調査したところ、やはりSAR8.2mサイレンシング株における病徴への影響は認められなかった。この結果から、SAR8.2mが疫病菌抵抗性に極めて特異的に働いていることがさらに示された。これまでに、SAR8.2mを処理すると、ファイトアレキシン生合成遺伝子EASなどの発現が誘導されることより、SAR8.2mは内生エリシターとして作用することを推定して研究を進めてきた。しかし、SAR8.2mの働きがジャガイモ疫病菌に対して極めて特異的であることから、内生エリシターとして以外の役割を担っていることが推定された。そこで、ベンサミアナにエリシターの処理および病原菌の接種を行い、抵抗性応答を比較した。その結果、SAR8.2mサイレンシング株ではエリシター誘導性の抵抗性応答は対照株と同等であったのに対して、ジャガイモ疫病菌に対する抵抗性誘導は顕著に抑制されていた。この結果は、SAR8.2mがジャガイモ疫病菌の病原力に作用している可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、よりジャガイモ疫病菌に近縁な病原菌にたいする抵抗性にSAR8.2mが関与しないことが明らかとなった。また、ベンサミアナにエリシターの処理および病原菌の接種を行った際の抵抗性応答を比較し、SAR8.2mがジャガイモ疫病菌の病原力に作用している可能性を示した。SAR8.2mの機能が本研究の開始時の推定とは全く異なる可能性が出てきており、SAR8.2mが病害抵抗性により高度な役割を担っていることが示されつつある。このように、今年度は今後SAR8.2mの役割を解明するための画期的な知見が得られたことから、本研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析を踏まえて、今後はベンサミアナが生産したSAR8.2mがジャガイモ疫病菌にどのように作用するかを中心に解析を進める。 1) 対照株およびSAR8.2mサイレンシング株の細胞間隙液を質量分析で解析し、成熟型SAR8.2mのアミノ酸配列を特定する。 2) 1の結果をもとに合成した成熟型SAR8.2mをジャガイモ疫病菌に処理し、生育、タンパク質の分泌機構への影響について調査する。 3) ジャガイモ疫病菌の形質転換系を確立し、SAR8.2mを発現した菌株を作出する。この菌株の病原性、エフェクターの生産能などを対照株と比較し、SAR8.2mの機能を明らかとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画に変更があったため。
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次年度使用額の使用計画 |
繰越し金を用いて、SAR8.2mを形質転換導入したトマトのRNAseq解析を行う。
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