研究課題
植物病害で多く見られる葉の退緑・黄化の分子機構を明らかにし,その制御方法を開発することによって新たな耐病性育種の基盤を形成する目的で,以下の研究を遂行した.(1)退緑・黄化を同調的に誘導できる実験系として,作製済のiTavタバコ[CaMVのTavタンパク質を薬剤誘導可能なプロモーターの制御下で発現する形質転換(Tg)タバコ]に加え,発現抑制によって退緑・黄化を生じるThf1およびChlIについて,amiRNAを薬剤誘導プロモーターの制御下で発現するTgタバコを作出した.CtHsp90ではamiRNAのデザインが不可能であったため,ヘアピンRNAを誘導プロモーターの制御下で発現するTgタバコを作出中である.また,シロイヌナズナにおいてTav誘導発現系を導入し,薬剤処理によって黄化する系統を得た.(2)退緑・黄化過程の解析:i-Tavタバコにおいて,誘導処理後のクロロフィル量の減少,遺伝子発現の変化を解析したところ,誘導後1日で病原性関連タンパク質PR1aの発現がサリチル酸非依存的に高まり,3日目以降に光合成関連遺伝子の発現低下が認められた.(3)葉緑体のプロテオーム解析の手法を確立する目的で,非形質転換タバコから酵素処理によってプロトプラストを単離し,破壊したプロトプラストから葉緑体を単離した.凍結融解・遠心法で膜画分とストロマ画分に分画し,二次元電気泳動の条件設定を行った.(4)病害シグナルを葉緑体に伝達する因子の候補,Thf1と相互作用する植物タンパク質を酵母ツーハイブリッド法(Y2H)で探索した.クロロフィル合成系酵素,斑入り変異を抑圧する変異体の原因遺伝子がコードする機能未知の葉緑体タンパク質など,種々の因子と相互作用することが示された.病害抵抗性タンパク質,および老化関連タンパク質との相互作用は,Thf1を分解に導くことを示唆する結果が得られ,葉緑体内におけるThf1量が葉緑体障害を決定する因子であるとする仮説が支持された.
1: 当初の計画以上に進展している
退緑・黄化を同調的に誘導できる実験系として数種類の形質転換タバコを作出しており,そのうちタバコのCtHsp90に関しては,当時,データベース上に塩基配列データがなかったため,同遺伝子をクローニングし,全塩基配列を決定する必要があったことから,若干の遅延を生じた.また,amiRNAのデザインは不可能であったが,ヘアピンRNAへと戦略を転換することを即断し,遅延は最小限に食い止められたと考えられる.一方,他の形質転換タバコの作出は予定通りに進んでおり,形質転換シロイヌナズナに関しては,すでに薬剤誘導によって黄化を示す系統が得られ,計画よりも早い進捗状況である.iTavタバコにおける遺伝子発現解析,およびプロテオーム解析の条件設定も予定通りに進んでいる.また,Thf1の相互作用パートナーの解析については,いくつかのパートナーとの植物細胞内における相互作用をBiFC法で検出することに成功し,さらに病害抵抗性タンパク質,および老化関連タンパク質との相互作用がThf1を分解に導くことを示唆する結果が得られ,Thf1が葉緑体への病害シグナル伝達に果たす役割を明らかにする端緒が得られた.以上のことを総合すると,若干遅延している小課題はあるものの,研究全体については計画以上に進展していると考えられる.
これまで当初の計画以上に進展していることから,計画を一部前倒しにして着実に実行する.また,本研究の成果に基づいて着想を得た新たな研究課題について,他資金に応募することによって,本研究課題を中心とする研究を強力に推進する.
研究代表者においては,平成26年度の助成金から¥2011の次年度使用額が生じたが,これは購入した試薬・消耗品等の値引き等によって生じたものである.本助成金からの最終の支出以降に必要となった試薬等を購入するためには不十分な額であり,それらは勤務先から措置される予算等によって購入したため,次年度使用額とした.研究分担者においては,¥708871の次年度使用額が生じた.この予算は,本研究における形質転換植物の育成,採取等を担当する研究補助員の雇用に充てる予定であったが,シロイヌナズナの形質転換が予想以上に高い効率で行なうことができ,分担者の作業が予定よりも早期に終了したこと,研究代表者においてCtHsp90の発現を抑制する形質転換タバコの作出に着手する以前に,遺伝子構造の解析等を行う必要が生じ,形質転換タバコ種子の送付が遅延していること,さらに加えて採用者の都合により採用に空白期間が生じたことなどに起因する.
CtHsp90の発現を抑制する形質転換タバコの作出に目途がついたこと,シロイヌナズナ形質転換体からの優良系統の選抜が予定よりも早期に終了し,変異原処理,および変異体種子の増産,変異体のスクリーニングを前倒しで実施することから,分担者において研究補助者の雇用が必要になるため,平成26年度からの繰越額をこれに充てる.
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Journal of General Plant Pathology
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Physiological and Molecular Plant Pathology
巻: 88 ページ: 43-51
http://dx.doi.org/10.1016/j.pmpp.2014.08.005