研究課題/領域番号 |
26292026
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
小林 括平 愛媛大学, 農学部, 准教授 (40244587)
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研究分担者 |
関根 健太郎 琉球大学, 農学部, 准教授 (30574058)
舘田 知佳 公益財団法人岩手生物工学研究センター, 園芸資源研究部, 研究員 (30774111)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 植物病害 / ウイルス / 葉緑体 / 退緑 |
研究実績の概要 |
本研究では,(1)同調的に退緑・黄化を発症する遺伝子組換え植物の作出とそれら植物の解析,および(2)過敏感細胞死などの抵抗反応に関与する葉緑体タンパク質,THF1の病害応答における役割の解析に取り組んでいる. (1)としては,以前に作出したCaMVの多機能性封入体タンパク質Tavを人為的誘導処理によって発現する形質転換タバコ(iTavタバコ)に加え,THF1,およびChlIのそれぞれに対する人工マイクロRNA(amiRNA)を同様な誘導プロモーターの制御下で発現する系を構築し,形質転換タバコを作出した.THF1-amiRNA導入タバコのT1世代を誘導薬剤存在下で育成したところ,強光誘導性の退緑が観察された.3週齢の実生では誘導薬剤処理によって弱光条件下においても退緑が認められた.また,誘導薬剤処理後3日内にTHF1タンパク質が検出限界以下に減少することも示された.一方,キュウリモザイクウイルスYサテライト由来のsiRNAの標的遺伝子であるChlIについては,amiRNAを誘導発現可能な形質転換タバコのT1世代を誘導薬剤存在下で育成したところ黄化が観察され,これについてはT2世代の採種を完了した.また,モモ潜在モザイクウイロイド由来siRNAの標的遺伝子であるCtHsp90については,amiRNAのデザインができなかったため,誘導プロモーター支配下でヘアピンRNAを発現する形質転換タバコを作出した.そのT1世代を誘導薬剤存在下で育成したところ著しい退緑が観察され,これについてもT2世代の採種を完了した.また,Tavを誘導発現するiTavシロイヌナズナについては,誘導薬剤を含む培地上で再現性良く緑化不全,および成長抑制を示す系統を選抜し,その種子のEMS処理を順次行っており,すでに2000粒由来のM2種子を得た.一方,(2)に関しては,THF1と相互作用する植物タンパク質として3種類の葉緑体タンパク質,および2種類の細胞質タンパク質を単離し,BiFC法を用いて植物細胞内における相互作用を確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに退緑・黄化の分子機構を解析できるモデル実験系としてiTav,THF1-amiRNA,ChlI-amiRNA,およびCtHSP90-hpRNAの4種類の形質転換タバコ系統群を確立した.今後,これらのモデル系を材料とし,トランスクリプトーム,プロテオーム,および葉緑体の微細構造解析を行うことによって,本研究課題の主題である退緑・黄化の分子機構の類型化が可能となると考えられる. 抵抗性タンパク質の相互作用パートナーとして同定したTHF1については,これまでシロイヌナズナの突然変異体を用いた研究が報告されてきたが,本研究において5種類の新規相互作用パートナーを同定するとともに,任意のタイミングでTHF1の発現を抑制することの可能な条件的ノックダウン実験系としてTHF1-amiRNAタバコを確立した.THF1の相互作用パートナーには3種類の葉緑体タンパク質,および2種類の細胞質タンパク質が含まれ,前者はTHF1がその局在場所である葉緑体で機能する際のクライアントであり,後者はTHF1の葉緑体局在を制御する因子であると想定される.今後,THF1-amiRNAタバコを用いて葉緑体のTHF1クライアントの蓄積や機能を解析することによって,THF1の葉緑体における機能を明らかにできると考えられる. iTavシロイヌナズナにおいては,Tavの発現による発芽後の緑化不全,および生長抑制が顕著であることが分かった.それゆえ,iTavシロイヌナズナは退緑・黄化と並んで多くのウイルス病で観察される矮化のモデルとしても有用であると考えられた.すでに変異原処理後の後代種子を取得し,Tavによる緑化不全,および生長抑制を回避する突然変異体のスクリーニングを開始しており,今後の成果が期待される. 以上のことから本研究は順調に進捗していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
ウイルス病害においては,光合成系遺伝子発現の低下は広く観察され,種々のメカニズムによって共通して起こる変化であると考えられる.それゆえ,本研究課題で作出したモデル実験系を用いた退緑・黄化の分子機構の類型化については,トランスクリプトーム解析よりもむしろプロテオーム解析によって,より精細に葉緑体における変化をとらえることができると考えられる.そこで,4種類のモデル系の比較解析においては,プロテオームと葉緑体微細構造の解析を中心に行う. THF1については,葉緑体におけるTHF1の機能,および葉緑体におけるTHF1蓄積の制御の両面からアプローチする.前者については,すでに同定した葉緑体内の相互作用パートナータンパク質の蓄積や機能に対してTHF1のノックダウンが及ぼす影響を解析する.また,THF1の過剰発現系を用いて葉緑体機能を保護する効果と相互作用パートナーに対する影響についても検討する.また,THF1の制御に関しては,細胞質の相互作用パートナーがどのような環境応答に関与し,THF1の制御に働きうるのかを明らかにするとともに,その過剰発現が葉緑体内のTHF1蓄積量に及ぼす影響,およびその発現抑制が植物の当該環境応答に及ぼす影響を詳細に解析する. iTavシロイヌナズナに関しては,Tavによる緑化不全,および生長抑制を回避する突然変異体を単離し,野生型iTavシロイヌナズナと交配してF2を取得する.それらのうち,変異体の表現型を示すもの,すなわち緑化不全,および生長抑制を回避する個体群についてリシークエンスを行い,原因遺伝子を同定する.リシークエンスについては,本研究課題の予算では賄いきれないことが予測されるので,他の制度等を活用し,効率的に研究を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者においては,平成27年度の助成金から¥893の次年度使用額が生じたが,これは購入した試薬・消耗品等の値引き等によって生じたものである.本助成金からの最終の支出以降に必要となった試薬等を購入するためには不十分な額であり,それらは勤務先から措置される予算等によって購入したため,次年度使用額とした.研究分担者においては,¥513829の次年度使用額が生じた.この予算は,本研究における形質転換植物の育成,採取等を担当する研究補助員の雇用に充てる予定であったが,研究代表者が行ったCtHSP90, ChlI,およびTHF1の形質転換植物の作出,およびT1世代の特徴付けに予定よりも時間を要したため,平成26年度から繰り越されてきたものの残額であり,平成27年度における予算の使用は予定通りであった.
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次年度使用額の使用計画 |
研究代表者の次年度使用分は平成28年度の物品費に含める.研究分担者の次年度使用額については,平成27年度から雇用している研究補助者(THF1形質転換植物の管理・採種を担当)の雇用にこれを充てる.
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