研究課題
植物病原菌の分泌するエフェクターは、植物の基礎的抵抗性や代謝を撹乱することで、植物病原菌の感染効率を高めていることが近年示唆されてきている。しかし、エフェクターの機能が詳細に明らかにされた事例は未だ数少なく、イネ-いもち病菌においてはほとんど明らかになっていない。先に申請者はいもち病菌由来の非病原力遺伝子AVR-Pikタンパク質の相互作用因子として、HMAドメインを含む低分子タンパク質"sHMA"を複数単離同定した。sHMA遺伝子のイネにおけるノックダウン個体を用いた試験の結果から、sHMA遺伝子はいもち病菌の感染を高める機能をもつ遺伝子(罹病性遺伝子)であることが推定された。また、いもち病菌から分泌された非病原力遺伝子AVR-Pikは、酵母Two-hybrid法や免疫沈降法によりsHMAのHMAドメインとタンパク質相互作用することが明らかとなった。そして、N.benthamianaタバコを用いた実験からAVR-Pikは、直接的タンパク質相互作用を通じて、sHMAタンパク質を安定化させていること(分解を抑制)が明らかになった。さらに、in vitroでの活性酸素種(ROS)蓄積量の測定によって、sHMA1或いはsHMA11は何らかのイネ因子とともに、ROSの蓄積を負に制御する機能を持つことが明らかとなった。ROSは植物細胞において基礎的抵抗性のシグナルとして働いていることから、このROS蓄積の抑制がいもち病菌の感染を高め、エフェクターとして働いていることが推察された。EDTA処理や熱処理でsHMAのROS蓄積抑制能は低下したことから、何らかの金属イオンを必要とし、イネ因子は酵素タンパク質であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
罹病性遺伝子として機能するイネsHMA遺伝子産物は、活性酸素種ROS、特に過酸化水素の蓄積を負に制御することで基礎的抵抗性を抑えていることが示唆され、そのメカニズムが明らかにされつつある。しかし、このsHMAタンパク質とともに働くイネ因子は単離同定されていないこと、或いは細胞内のタンパク質局在性が不明のままで、機能の全体像が明らかになったとは言いがたい。
罹病性遺伝子として機能するイネsHMA遺伝子産物は、活性酸素種ROSの蓄積を負に制御することで基礎的抵抗性を抑えていることが推定された。このsHMAタンパク質とともに働くイネ因子を単離同定し、そのROS蓄積抑制のメカニズムを明らかにする。また、いもち病菌由来の非病原力遺伝子AVR-Pikは、いもち病菌の感染を高める機能をもつ遺伝子(罹病性遺伝子)であることから、いもち病菌由来のエフェクターとして機能することが推定される。AVR-Pik産物がsHMA産物と細胞内のどこで、どの様に相互作用しエフェクターとして機能するのかを明らかにする。さらに、sHMAはファミリーを構成しているが、sHMA1やsHMA11以外の他のsHMA遺伝子について、罹病性遺伝子として機能するのか、その機能メカニズムをイネ協働因子との関連から推定する。AVR-PikとsHMAタンパク質の相互作用について、結晶構造解析から詳細を明らかにする。
タンパク質合成受託(委託費)の依頼など、次年度での使用が予定されているため。
タンパク質合成受託(委託費)の遂行、及びこの試料を用いたin vitro ROS分解量の測定実験の実施などをおこなう。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 図書 (1件)
The Plant Journal
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