研究課題/領域番号 |
26292029
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
刑部 正博 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (50346037)
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研究分担者 |
菅原 達也 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70378818)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | UV損傷 / 光回復 / カロテノイド / 酸化ストレス |
研究実績の概要 |
1. UV 損傷の発症と光回復に関する分子メカニズムの解明 UVB によるDNA 損傷は、損傷を受けた遺伝子が発現しない発育ステージでは大きなコストにならず、遺伝子発現までに光修復が完了すればハダニはUV による致死的ダメージから回復できるという仮説に基づき、UV照射の有無によるDNA損傷の差異が幼虫の遺伝子発現に及ぼす影響について、次世代シーケンサーによる網羅的発現遺伝子解析(RNA-seq)を行った。今後、RNA-seqを反復することにより、UVによるDNA損傷と可視光による光回復の実態を解明する。 一方、DNA修復酵素の発現のタイミングについて、昨年度のナミハダニ幼虫における検証では、30分間のUVB・可視光照射によってCPDフォトリアーゼ遺伝子発現量は30分間以内では変化しなかった。そこで、UVB照射からタイムラグを経て発現が誘導されるかどうかを検証するとともに、昨年度は知られている4遺伝子のうち3遺伝子に共通のプライマーを用いて解析していたものを、現在、遺伝子特異的プライマーに変更してさらに解析を進めており、今後、RNA-seqの結果と合わせてハダニにおけるUV損傷と生物影響、その回復機構に迫る予定である。 2. ハダニの生体保護機能の解明 昨年度の分析から、ミカンハダニの野生型とアルビノ型のカロテノイド組成は、寄主植物由来のものを除けば野生型でアスタキサンチンとそのエステル体が存在する点においてのみ系統間の際があることが判明した。本年度の分析では、主にカロテノイドの働きによる一重項酸素除去能力が野生型で高いのに対して、主に代謝的反応による酸素ラジカル吸収能では系統間に際がないことが明らかになった。 さらに、UVおよび高温ストレス下で飼育した場合には、野生型に比べてアルビノ型で顕著に高い過酸化脂質の蓄積が起こることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
UV損傷と光回復については、ほぼ想定通りの進展が得られている。一方、カロテノイドの生体保護機構については、本年度に予定していた培養細胞系を用いたハダニのカロテノイドの保護効果の検証はできなかった。しかし、活性酸素種とアスタキサンチンの効果の検証については想定以上に進展したため、このデータを参考にすることにより、今後の研究が進めやすくなったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後さらにUV損傷と遺伝子発現との関係がハダニの生死に及ぼす影響を、UVBによりDNA損傷を受けた個体とその後光回復した個体との比較ならびに光回復のタイミングとの関係から評価する。また、ハダニのカロテノイドが持つ抗酸化活性が生体保護に果たす役割を、培養細胞系などを用いて検証していく予定である。さらに、この生体防御機構が光回復に対して、酵素の保護などを通じて貢献するか否かなど、カロテノイドによる生体防御機構と光回復との関連性についても評価していく予定であり、それらによってハダニによる植物体利用(特に葉の上面下面)という生態的特性にこれらの生体防御が果たす役割を考えていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
翌年度参加予定の学会参加費の支払い時期が不明であり、支払いに備えて一定額を年度末まで残していたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
残額は物品費あるいは旅費への充当として有効に使用する。
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