植物の食害に対する防衛反応は複数のシグナル系によって駆動されているが、それらの関係性には未解明な部分が多い。その解明は被食防衛反応の全体像の構築と害虫防除への応用に繋がる重要な課題である。研究代表者は、植物の防衛能力は植物起源の外部刺激(エリシター)によって操作できることを明らかにしてきた。本研究は、複数のエリシターを組み合わせて処理し、その分子メカニズムと誘導されるシグナル系間の関係性を食害と比較しながら解析し、植物の被食防衛機構を解明し、害虫防除へと応用する基盤を構築することを計画している。当該年度は、ジャスモン酸およびそのアナログである、n-Propyl dihydrojasmonate (PDJ) 処理による揮発性物質の誘導と誘引に関して研究を展開した。キャベツの現品種であるケールにPDJを処理し、誘導される揮発性物質を個相吸着法で捕集し、ガスクトマトグラフ質量分析計で解析を行った。既存のデータベースとの照合で、4化合物および未同定一化合物がPDJ処理で特異的に誘導されることが明らかとなった。これらの物質のコナガサムライコマユバチ、ヒメカメノコテントウに対する誘引性を現在解析中である。イネに対するジャスモン酸処理の効果は、野外の実験圃場(水田)で行った。苗の時期にジャスモン酸処理を行うことでその後のイネ株の病害に対する抵抗性を調査した。当該年度は害虫の発生が少なく、差異は認められなかった。時間経過毎にRNAを抽出した。RNAサンプルの網羅的解析は二年度に行う予定である。リママメの種子ジャスモン酸を処し、葉のナミハダニに対する誘導抵抗性の実験も行い、解析中である。エリシターとして植物由来の揮発性物質も研究対象とし、ダイズに対する野外処理でハスモンヨトウの抵抗性を検出した。
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