植物の食害に対する防衛反応は複数のシグナル系によって駆動されているが、それらの関係性には未解明な部分が多い。その解明は被食防衛反応の全体像の構築と農業への応用のための重要な課題である。研究代表者らは、植物の防衛能力は植物起源の外部刺激(エリシター)によって操作できることを明らかにしてきた。本研究は、複数のエリシターを組み合わせて植物に処理し、複数のシグナル系を操作することで、シグナル系間の関係性を解明する。さらにそれを有効利用した農作物の防衛能力の強化に関する研究を行う。 平成26、27年度に引き続きエリシターの組み合わせ実験を行った。本年度の結果は以下の通りである。(1)キャベツへのジャスモン酸のアナログである農薬資材N-Propyl dihydrojasmomate (PDJ)処理の効果についてキャベツを用いて調べた。その結果、昨年度の大根での成果と同様に、害虫の発生が抑制された。とくにアブラムシの抑制が顕著であった。PDJ処理キャベツ株でアブラムシの忌避性は向上しなかったため、この抑制はキャベツ自身の直接的な摂食に対する抵抗性の向上に由来すると結論した。圃場で、PDJとすでにジャスモン酸誘導性の防衛活性に協力的に働くスペルミンの同時処理、PDJ単独処理、無処理区を設定し、その後のセイタカアワダチソウの成長を調査した。昨年度得られた、同時処理区で種子数の増加が本年度は確認できず、研究を継続する。新規のエリシターとして植物由来の揮発性成分の効果も引き続き検証した。傷つけたススキ株、あるいは傷つけたセイタカアワダチソウ株の匂いを育苗期に受容させたイネのパフォーマンスついて、圃場ならびに室内での比較実験を行った。その結果、匂いを受容していないイネに比べ、ススキの匂いを受容したイネでは収穫量が高まり、一方、セイタカアワダチソウの匂いを受容したイネでは収穫量が低くなった。
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