研究課題/領域番号 |
26292031
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
尾添 嘉久 島根大学, 生物資源科学部, 教授 (80112118)
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研究分担者 |
河野 強 鳥取大学, 農学部, 教授 (50270567)
松田 一彦 近畿大学, 農学部, 教授 (00199796)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イオンチャネル / 創薬ターゲット |
研究実績の概要 |
昆虫GABA作動性塩素イオンチャネル(GABACl)内の新規生物制御剤作用点として、細胞外ドメインに存在するアゴニスト結合部位が有望であると考えられる。この部位に結合して阻害作用を示す2つのタイプの競合的アンタゴニスト候補化合物を合成し、3種昆虫からクローニングしたGABAClに対する活性を評価した。その結果、今後さらに高活性な類縁体の創製のリードとなるアンタゴニストを得た。さらに、リガンド作動性陰イオンチャネル(LGAC)膜貫通領域のサブユニット境界に存在する作用点を探索するための光親和性標識プローブの創製に成功した。 カイコ由来グルタミン酸チャネル(GluCl)遺伝子の選択的スプライシングにより6種のバリアントが生じる。そのうち、チャネル形成した5バリアントの性質を調べたところ、膜移行して機能チャネルをつくる効率に差があり、その原因はエクソン3の4アミノ酸にあることを明らかにした。また、糸状菌が産生する殺虫性化合物2種の作用機構を調べた。その結果、オカラミンはカイコGluClを選択的に活性化するのに対して、クロドリマニンはカイコGABAClの拮抗的アンタゴニストとして働き、その作用が昆虫GABACl選択的であることを解明した。 植物寄生線虫であるサツマイモネコブセンチュウのアミン作動性塩素イオンチャネルを解析するために、大量培養した線虫よりRNAを調製し、RT-PCRに供した。C. elegansのアミノ酸チャネル1種とアミンチャネル3種のアミノ酸配列を用いてネコブセンチュウデータベースを検索し、相同アミノ酸配列を得た。このアミノ酸配列に対応するゲノム配列を抽出し、RT-PCRに用いるプライマーを設計した。その結果、GABACl(UNC-49B)の全長cDNAとアミンチャネル3種の部分cDNAを得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、生物制御剤の重要なターゲットである昆虫や線虫のリガンド作動性陰イオンチャネル(LGAC)に関する研究を行って、新規制御剤創製の基盤を作ることである。GABA作動性塩素イオンチャネル(GABACl)およびグルタミン酸作動性塩素イオンチャネル(GluCl)に加えて、線虫C. elegansにおいては、同じLGACファミリーに属する数種のアミン作動性チャネルの存在が示された。アミンチャネルは、線虫にだけに存在する特異的なチャネルであるが、これらについての知見は十分に得られておらず、薬理学的知見に至っては皆無である。そこで本研究では次の2点を課題として掲げた。 (1)昆虫から単離したLGAC遺伝子とその変異型の種々リガンドに対する応答を調べ、作用点の構造解析を行う。この課題に関しては、種々のリガンドの合成から始め、合成したリガンドの3種昆虫GABAClに対する作用を調べ、構造活性相関に関する知見を得ることが出来た。また、GluClに対する光親和性プローブの合成も行い、次年度以降の薬物作用点解析のためのツールを得た。さらに、糸状菌由来天然物2化合物のGABAClとGluClに対する作用機構を詳細に解析した。さらに、LGACの構造解析に関しては、GluClのバリアント遺伝子の発現解析を行い、バリアントによって発現調節を行っているという新メカニズムを解明した。以上のように、研究は順調に進んでいる。 (2)動植物寄生性線虫に発現するLGAC遺伝子の解析を行い、創薬ターゲットとしての可能性を検証する。本課題においては、農作物に甚大な被害をもたらすサツマイモネコブセンチュウに存在するGABAClとアミンチャネルの全長および部分cDNAを取得し、一部については機能解析を開始した。研究は、ほぼ計画どおりに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
上記課題1に対する推進方策として、グルタミン酸作動性塩素イオンチャネル(GluCl)のスプライスバリアントの解析から発現調節における役割が示唆されたので、これについては、GABA作動性塩素イオンチャネル(GABACl)のバリアント解析も進め、その存在意義について解明する必要があると考えられた。糸状菌から単離した新規殺虫性化合物については、作用点の同定のための研究を鋭意進める。GABAClには、膜貫通ドメインのサブユニット間に新規アンタゴニスト作用点が存在することが示唆されているので、この作用点の構造と薬理学的重要性についてさらに明確にする必要がある。また、ワモンゴキブリには既知アンタゴニスト殺虫剤に対して高感受性を示すGluClが存在するという報告があるので、この点を明確にするために、ワモンゴキブリからGluClとGABAClのコード遺伝子を新たにクローニングし、機能解析する必要がある。さらに、平成26年度に創製した光標識プローブの有効性を示す研究も進めなければいけない。 上記課題2に関しては、サツマイモネコブセンチュウからGABACl UNC-49Bをコードする全長cDNAをクローニングしたので、機能解析に向け、研究を進める。UNC-49Bと共発現すると考えられるUNC-49Cのクローニングも進める。部分配列を取得したアミンチャネル遺伝子の完全クローニングを目指すとともに、生理学的意義と薬理学的重要性を明らかにするために、部分配列を利用してRNA干渉を実施する予定である。さらに、アセチルコリン作動性陰イオンチャネルのコード遺伝子のクローニングも開始する必要がある。
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