研究課題
培養液に5mM硝酸を添加して1日後のダイズの根粒と根の遺伝子の発現をマイクロアレイで解析した。硝酸添加により無添加に比べて遺伝子の発現が4倍以上上昇した遺伝子数は、根で145、根粒で85あり、共通する遺伝子は9であった。一方、硝酸添加で4倍以上低下した遺伝子数は、根で93、根粒で120あり、共通する遺伝子は1であった。硝酸添加で根では硝酸の輸送、硝酸還元や窒素代謝に関する遺伝子の発現が顕著に高まった。さらに、根では、解糖系、TCA回路、ペントースリン酸経路の炭素代謝関係遺伝子の発現も硝酸添加で上昇した。一方、根粒では、アスパラギン合成酵素を除いて、窒素代謝に関与する遺伝子の発現は変わらず、炭素代謝関連遺伝子はむしろ抑制傾向が認められた。メタボロームでは、ダイズの根と根粒に含まれる315の化合物を網羅的に測定した。硝酸添加により濃度が2倍以上上昇した化合物は根では17、根粒では6であった。根で上昇した化合物は、グルタミン、アスパラギン、アラニンなどであった。根粒では、アスパラギン濃度の顕著な上昇とアラントイン、アラントイン酸濃度の上昇が見られたが、その他のアミノ酸濃度はあまり変化がなかった。ダイズ体内における代謝産物の網羅的解析のため、現有のUPLC装置に接続できる質量分析器システム(日本ウオ-ターズ(株)製・QDa 検出器システム)を導入した。アンモニアおよび22種のアミノ酸遊離アミノ酸をAQC誘導体に変えて逆相カラムで分離後のアミノ酸AQC誘導体を質量分析測定できた。日本原子力研究開発機構との共同研究で、ダイズ根粒で固定した13N2の地上部への移動を観察でき、移動速度を推定した。根粒からの水素発生によりニトロゲナーゼ活性をモニタリングする方法を検討した結果、水素センサーが温度により大きな影響を受け、温度変化を伴う測定では注意が必要であることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
培養液への硝酸添加によりダイズ根粒の肥大生長や活性の阻害を引き起こす。培養液への硝酸添加1日後の、根と根粒の遺伝子発現と代謝産物の変化の網羅的解析を実施することができた。硝酸添加の影響は、主に根の窒素代謝、炭素代謝関連遺伝子の上昇に現れ、根粒では、反対に炭素代謝遺伝子等が抑制された。この結果は、「硝酸吸収と代謝に根で多くの光合成産物を使うため、根粒への光合成産物の供給が低下することが、根粒の肥大生長と、窒素固定活性の抑制の原因である。」仮説に一致した。なお、根粒で、アスパラギン、アラントイン濃度の上昇がみられたことから、これらの化合物の根粒における生合成の促進または、根粒からの移動が阻害されたと予想できる。また、液体クロマトグラフ(UPLC)に質量分析系を接続して、アミノ酸の誘導体の質量分析ができたことから、今後、本装置を利用して、紫外部吸収測定により分析できない成分や未知成分の同定が期待される。
本年度は、5mM硝酸添加1日後の根と根粒のみにしぼった解析を実施した。今後、短時間(数時間から1日)、および長期間(1から3日)における根、根粒、葉,茎等体内代謝成分の網羅的分析を行い、硝酸添加後の体内成分変動の時間経過を分析する。硝酸以外の、アンモニア、グルタミンなどの化合物の添加の根粒肥大と体内代謝産物への影響も調べる。また、安定同位体の15N2やポジトロン放出核種の13N2をダイズ根粒に固定させ、地上部への移行経路を解析する。
水素モニタリング装置(30万円、2台)を購入予定であったが、現有の水素モニタリング装置での窒素固定活性測定が温度に影響されるため、購入を控えたため、繰り越すことになった。
重窒素標識試薬、各種試薬、分析器具などの使用を予定している。
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Bull. Facul. Agric. Niigata University
巻: 67 ページ: 27-41