研究課題/領域番号 |
26292037
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
阿部 敬悦 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (50312624)
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研究分担者 |
矢野 成和 山形大学, 理工学研究科, 助教 (50411228)
佐野 元昭 金沢工業大学, バイオ・化学部, 准教授 (80410299)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 糸状菌 / シグナル伝達 / 細胞壁 / 多糖 / 分化 |
研究実績の概要 |
これ迄の我々の研究でAspergillus属菌を含む多くの糸状菌には出芽酵母に存在しないα-1,3-glucan(AG)が存在し、細胞間接着に関与することを明らかしている。本研究では、AGが細胞接着を介して菌糸塊形成と有性生殖に関与することを明らかにする。モデル糸状菌Aspergilus nidulansには2種のAG合成酵素遺伝子agsA, agsBが存在し、栄養成長ではAgsBがAGを生産しており、cell wall integrity(CWI) MAPKinase経路が、agsBの転写制御を通じてAG合成量を制御している。一方、agsAの転写制御については不明であり、我々は有性生殖制御に関与するMAPK MpkB制御化にあることを予想している。 1)CWI経路, フェロモン経路AG合成酵素遺伝子欠損株の有性生殖能の解析 これ迄に、モデル糸状菌A. nidulans (高相同組換え株―ligD遺伝子破壊株)を用いて、2種存在するAG合成酵素agsA, agsBの単独破壊株および二重破壊株を用いて造成した。しかし、有性生殖にはLigDが必要であることから、各破壊株への野生型ligD遺伝子再導入を行って解析株の準備を行った。また、CWI経路(MpkA経路)とフェロモン経路(MpkB経路)の発現を制御した株を造成しAG合成酵素遺伝子を含むの細胞壁合成関連遺伝子の転写解析を実施した。 2) AgtAの精製と糖転移反応産物の確認 AgtAはGPIアンカーを有する細胞壁局在型のα-gluccosidaseで、α-1,3結合でのglucose転移活性を有し、細胞壁α-1,3-glucanの生合成に関与すると考えられる。麹菌AgtAのGPIアンカーを除去した遺伝子を高発現する麹菌を造成し、培養液よりAgtAを精製した。現在、糖転移活性を解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、以下の大項目2つを実施しており、概ね順調に進行している。 1)CWI経路, フェロモン経路AG合成酵素遺伝子欠損株の有性生殖能の解析 (1)CWI経路, フェロモン経路AG合成酵素遺伝子欠損株の有性生殖能の解析~2種のAG合成酵素遺伝子単独および二重破壊株にligD遺伝子を相補した有性世代解析用の株の準備を進め、agsBΔおよびagsAΔagsBΔ株へのligD相補が完了した。agsAΔへの相補実施中で完了間近である。解析株が準備できてきており、80%の達成度である。 (2)AG生合成遺伝子発現のCWI経路とフェロモン経路への依存度の評価~mpkAΔ株、mpkBΔ株、conditional-mpkBmpkAΔ株を造成した。これらの株のAGS遺伝子の転写解析を実施したことで達成度は100%である。 2)AgtAの精製と糖転移反応産物の確認~AgtAのGPIアンカーを削った変異体を麹菌で高発現し、AgtAの精製に成功した。AgtAのα-1,3のgluose転移活性を測定中であり、達成度は100%である。
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今後の研究の推進方策 |
1)CWI経路, フェロモン経路AG合成酵素遺伝子欠損株の有性生殖能の解析~平成26年度に作出した菌株に加え、現在作成中のagsAΔ-ligD相補株を用いて有性性生殖解析を行う。 2) AGの化学構造と凝集性の解析 (1)CWI経路とMpkB経路の単独活性化菌体より精製した細胞壁AGの構造解析~mpkBΔ株のCWI経路を細胞壁合成阻害剤で刺激した菌体と、有性生殖によりmpkAΔ株のMpkB経路を刺激した菌体より、細胞壁AGを精製して化学構造解析を行う。(2)AgsAおよびAgsB単独発現株のAGの化学構造解析~26年度に作出したagsAΔagsBΔ二重破壊株にagsAまたはagsBを単独高発現し、その株からAGを精製して、NMRによるアノマー性の確認、メチル化分析による結合様式・分岐度・重合度の化学的解析を行い、AGの化学的性状とAG合成酵素を関連付ける。(3)AgsAおよびAgsB単独発株の精製AGの凝集性評価~DMSOにAGを可溶化後、疎水性蛍光粒子を加え超音波処理でAGを被覆する。粒子がAGで被覆されると粒子表面が親水化し、粒子はDMSO層から水層へ移行する。AG被覆粒子を洗浄後、分散性と凝集性を光散乱計で計測し、AGの凝集性を評価する。(4)AgtAのAG合成への寄与の解析~agsAΔagsBΔagtA三重破壊株にAgsA-AgtA, AgsB-AgtAを二重高発現した菌体を作出し、細胞壁のAGを精製して構造解析を行う。 3)AgtAの精製と糖転移反応産物の確認~26年度に確立した方法で精製したAgtAΔGPIとAGオリゴ糖を基質として、糖転移反応による産物をLC-MSとNMRにより解析するAgtA高発現株でin vivo合成されるAGの構造解析結果と対応付けて、AgtAのAG合成への寄与と、産物物性を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
糖分析用の菌株種の育種が少し遅れたために、糖分析の解析が次年度になったために、糖分析用のカラムの購入をしなかったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度に実施できなかった解析を実施するために、平成27年度にカラムを購入する予定である。
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