研究課題/領域番号 |
26292043
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研究機関 | 尚絅学院大学 |
研究代表者 |
神尾 好是 尚絅学院大学, 総合人間科学部, 名誉教授 (00109175)
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研究分担者 |
金子 淳 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30221188)
草野 友延 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (40186383)
姚 閔 北海道大学, 先端生命科学研究科(研究院), 教授 (40311518)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ポリアミン含有ペプチドグリカン / リジン/オルニチン脱炭酸酵素の分解 / Selenomonas ruminantium / AT依存性プロテアーゼ / Clp系プロテアーゼ |
研究実績の概要 |
1.Selenomonas ruminantium の全ゲノム解析:本業績はFEMS Microbiol.Lett.に報告した(印刷中)。 2.S.ruminantium におけるP22依存性LDCの分解制御機構の解明:LDC、P22の無細胞分解系の再構成を試みた。基質として野生型rLDC、rP22を用い、分解に関わると推定されるATP依存性プロテアーゼ群(ClpA-ClpX, ClpA-ClpX-1,ならびにLon)複合体との組み合わせでのLDCの分解活性を検討した結果、すべての組み合わせでLDCの分解は本菌細胞破壊上清を用いたLDCの分解活性より極めて低かった。 3. S.ruminantium増殖に伴う細胞内フリーポリアミン量の変化の解析:以下の結果を得た。(a) カダベリン(Cad)量はLCD量の増加とパラレルに増加、対数後期から穏やかに減少すること、(b) Cadの増加に先行してスペルミジン(Spd)が増加し対数中期にピークとなり、その後速やかに減少すること、一方でプトレシン(Put)量は低レベルで推移すること、を見いだした。この結果を、ゲノム解析の結果から、以下のように考察した。① Cad量の増加はLDC量の増加と並行しており、対数期にはLDCにより盛んにCadが供給される。一方、推定Put/SpdのABC transporter遺伝子の存在が確認された。そこでLDC分解後のフリーCad量の減少は、その分解ではなく、これらトランスポーターによる排出、あるいはペプチドグリカンへの取り込み継続が関わっている可能性がある。② これまでに本菌は2種類のPut合成酵素を持つことを明らかにして来た。そのうちの一つはLDCの持つオルニチン脱炭酸活性であり、もう一つはアルギニン脱炭酸酵(ADC)経由のルートである。ADC遺伝子はその他のPut/Spd合成関連遺伝子群を含むオペロンの最先端に位置している。本菌の生育において、フリーSpd量がCadに先駆けて増加、減少ことはADC/Spd合成系のオペロン発現がLDC発現に先駆けて活性化、および抑制されていることを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.S.ruminantium におけるP22(L10)依存性LDCの分解制御機構の解明の中で、LDCのATP依存性分解には、L10のLDCへのA領域、及びB領域の両領域の結合が必須である。本L10の結合がLDCの構造変化を引き起こすと予想されたのでLDCとの複合体の構造解析を試みるため、これまで大腸菌からの組み換え体を取得しが、水不溶性としてのみ回収された。そこで、初年度はL10ゲノム塩基配列をカイコ培養細胞発現系のアミノ酸コードに変換したL10を作製しカイコ培養細胞でのL10の調整を試みたが大腸菌からの組み換体同様、水不溶性だった。 2.上記研究業績欄の2において、393アミノ酸残基から成るLDCのL10依存的分解はClpX/Pによることが明らかにされたが、分解活性は極めて弱い。その理由として、2量体から成るLDCにおいて単量体同志が向かい合う内面にL10結合領域があることが予想されたのでLDCの単量体を基質に使用すべきだった。 3.LDCのC-末端5アミノ酸残基は,-VKKAV393であるが、大腸菌において、ファージMuの196アミノ酸残基から成る転位制御蛋白質のC-末端アミノ酸配列も-VKKAV196である。本制御蛋白質はClpX/Pで分解されないが、変異株(V196A)はClpX/Pで分解されることが報告されている。従って、今回はLDC変異株(V393A)を作製したが、活性発現実験には至らなかった。 2.組み換体Ldt(rLdt)の生化学的及び構造科学的特性の解明においては、S.ruminantium の全ゲノム配列を参考に本菌由来 Ldtをコードするorf2750を大腸菌にクローニングしてrLdtを得た。本rLdt標品は、無細胞系でATP依存的に細胞膜に存在する標的基質であるリピド中間体へのカダベリンの転移を触媒するが、転移反応は弱かった。その原因を追究中、orf2750の上流に同一転写系で転写されるorf2751が存在した。ORF2751は、Ldtとリピド中間体との親和性を高めるトリガー蛋白質である可能性がある。今回ははORF2751遺伝子のクローニングに留まった。
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今後の研究の推進方策 |
1.S.ruminantium におけるL10依存性LDCの分解制御機構の解明:本年度はインタクトL10の取得を諦め、A及びB領域を含むL10のC末端75アミノ酸残基から成るペプチド断片の組み換体、さらにLDCとの複合体を取得した後、結晶化させ本複合体のX線構造解析を行いLDCの構造変化を解析する。 2.本年度は2量体形成不可変異組み換体LDC株(G350D)をLDC標品としてこの分解活性をClpAあるいはClpX-1とClpP複合体との組み合わせでのLDCの分解活性を検討する。また、LDC変異株(V393A)を作製し、本変異株がL10非依存的にClpX/Pにより分解されることを実証する。 4.組み換体Ldt(rLdt)の生化学的及び構造科学的特性の解明の中で、本年度はORF2751を精製し、本標品存在下でのORF2750のカダベリン転移活性を検討する。 5.ADC/Spd合成系のオペロンで興味深いのは、adc遺伝子の次位にはサッカロピン脱水素酵素(SDH)と推定される遺伝子が存在する。本酵素はリジンのεアミノ基窒素とαケトグルタル酸のケト基の炭素を還元とともに脱水素し共有結合させサッカロピンを形成する活性を有する。サッカロピンは哺乳類や高等植物ではリジン分解の、菌類ではα-アミノアジピン酸経路によるリジン生合成の中間体である。近年、細菌でもサッカロピンを経由するリジン分解系の存在が報告されているが、本菌のゲノムでは、サッカロピン以降の代謝に関わる酵素遺伝子が確認できず、Lys分解に関与しているとは考えにくい。そこでSpd合成系とともに発現するSDHの意義として、SaccharopinがLDC活性型2量体の単量体化を促進し、LDCの活性調節に関与している可能性を検討する。すなわち、対数中期に発現するSDHにより菌体内のサッカロピン濃度増加によって単量体LDCとなることがL10による認識につながることを証明する。具体的にはLDC分解のアッセイ系が完成した場合、サッカロピン存在下での活性型LDCのL10依存的分解の可能性を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
S.ruminantium生育定常期初期におけるL10の細胞質への誘導出現現象の解析並びにカダベリン転移酵素の発現実験が次年度に延期されたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
L10の細胞質への誘導出現現象の解析並びにカダベリン転移酵素の発現実験に使用するラジオアイソトープ標識アミン並びに細胞質中のポリアミンの定量実験に使用するHPLC用カラムの購入に充てる。
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