研究課題/領域番号 |
26292044
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
村田 幸作 摂南大学, 理工学部, 教授 (90142299)
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研究分担者 |
橋本 渉 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30273519)
丸山 如江 摂南大学, 理工学部, 助教 (90397563)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ABCトランスポーター / 酸性多糖輸送 / Sphingomonas / X線結晶構造解析 / 輸送体分子進化 / 体腔 / フラジェリン / 鉄輸送体 |
研究実績の概要 |
グラム陰性細菌のペリプラズム局在性基質結合タンパク質は、基質を細胞外膜から内膜に輸送する機能を有している。その場合、基質を結合した基質結合タンパク質は、内膜局在性のATP結合カセット(ABC)トランスポーターと高次複合体を形成し、基質をABCトランスポーターに受け渡す。しかし、基質の受け渡しに於ける両者の構造機能相関の詳細は不明である。本研究では、体腔形成細菌Sphingomonas sp. A1株 において、高分子酸性多糖(アルギン酸)を輸送するABCトランスポーター(AlgM1M2:AlgS-AlgS)を対象に、基質結合タンパク質(AlgQ2)とABCトランスポーターとの複合体の立体構造と機能を完全に解明し、高分子物質と低分子物質の輸送に関わるABCトランスポーターの構造的・機能的相関、並びに他の輸送装置(PTS:グルコース輸送体)との進化学的な関連を明らかにすることを目指している。大腸菌発現系を用いて調製したAlgM1M2:AlgS-AlgSをAlgQ2とアルギン酸(オリゴ糖)存在下で結晶化し、3.2Å分解能で構造を決定した。その結果、AlgQ2はアルギン酸を捕捉した状態でABCトランスポーターと結合し、AlgM1とAlgM2はペリプラズム側(AlgQ2接触面)が閉じ、細胞質側に開いた状態で二量体を形成していた。また、AlgS-AlgSは、各単体のATP結合部位が離れた状態で、AlgM1M2と結合していた。AlgQ2は、AlgM1M2と結合した状態で外界から基質結合サイトへと続く長さ約30Åのトンネル状の空洞を形成しており、この構造が高分子アルギン酸をトランスポーターへ受け渡す必須構造であることを明らかにした。このようにABCトランスポーターの構造的特徴を明らかにすると共に、本菌のアルギン酸レセプターなどの解析も進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
体腔形成細菌が有する巨大分子(アルギン酸)輸送ABCトランスポーターの完全立体構造の決定とその構造機能相関の理解を目的としている。この内膜局在のABCトランスポーター (AlgM1M2:AlgS-AlgS内膜のAlgM1M2ヘテロ二量体と細胞質のAlgS-AlgSホモ二量体より構成される)は、ペリプラズム局在のアルギン酸結合タンパク質(AlgQ1またはAlgQ2)と会合した高次構造の形でアルギン酸の輸送に関わる。つまり、アルギン酸はAlgQ1もしくはAlgQ2から内膜のABCトランスポーターへと受け渡され、その場合AlgSによるATP加水分解エネルギーが利用される。大腸菌発現系を用いて調整したAlgM1M2:AlgS-AlgSをAlgQ2とアルギン酸(オリゴ糖)存在下で結晶化し、3.2Å分解能で構造を決定した。結晶中で、AlgQ2はアルギン酸を捕捉した状態でABCトランスポーターと結合していた。AlgM1とAlgM2はどちらも6回膜貫通へリックスを持ち、ペリプラズム側(AlgQ2接触面)が閉じ、細胞質側(AlgS-AlgS接触面)に開いた状態(inward-facing構造)で二量体を形成していた。また、AlgS-AlgSホモ二量体は、各単体のATP結合部位が離れた状態で、AlgM1M2と結合していた。また、AlgQ2は、AlgM1M2と結合した状態でも外界から基質結合サイトへと続く長さ約30Å(アルギン酸8糖相当)のトンネル状の空洞を形成しており、この構造が、高分子のアルギン酸をトランスポーターへと受け渡すために必須であることを明らかにした。このように構造的特徴を明らかにし、本研究の究極的な所まで解析が進んだ。これに加えて、本菌の細胞表層でアルギン酸を濃縮するタンパク質の構造と機能の相関も明らかにし、当初の目標を凌ぐ進展を見せている。
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今後の研究の推進方策 |
巨大分子輸送用ABCトランスポーターの全構造をほぼ明らかにした。今後は、更にアルギン酸輸送機構の詳細、特に輸送される多糖の分子鎖長、構成糖の種類、輸送速度(ATP分解速度)と輸送量との関連などを解明する。また、細胞表層でアルギン酸濃縮に関わるタンパク質(このタンパク質は鞭毛形成タンパク質フラジェリン)の構造機能相関及びアルギン酸の外膜通過を許容する輸送体(これは鉄輸送体)の構造機能相関解析を進める。また、本菌の細胞表層に存在し、体腔形成に関わる巨大襞分子の単離と構造解析も進める。更に、ABCトランスポーターの精密化も進める。具体的には、①襞分子:細胞表層襞分子の精製と構造解析。②ABCトランスポーター立体構造の精密化:分解能3.2Åで主鎖構造まで決定したABCトランスポーターの結晶構造において、AlgM1AlgM2はAlgS-AlgSとの接触面側(細胞質側)が開いた構造をとり、AlgM1AlgM2の閉じたペリプラズム領域にはアルギン酸を捕捉したAlgQ2が結合している。一方、AlgM1AlgM2の内腔には、荷電性アミノ酸残基が多数存在している。内腔に荷電性残基を殆ど持たないマルトース輸送ABCトランスポーターと対照的であり、酸性基質であるアルギン酸の選択性に関わっていると考えられる。そこで、これらの特質の詳細を決定する。③ABCトランスポーターの活性制御機構:ABCトランスポーターの輸送能は、基質(アルギン酸)を結合した基質結合タンパク質が、ABCタンパク質(AlgS)を活性化することによって増大する。これはタンパク質間相互作用による情報伝達であるため、基質結合タンパク質とABCトランスポーターとの相互作用に関わる構造要因、並びに基質結合タンパク質との相互作用によるABCトランスポーターの微細な構造変化を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は物品費および旅費について部分的に校費で賄うことが出来た為、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
試薬・消耗品の購入および実験補助員雇用の為の費用に充当する予定。
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