研究課題/領域番号 |
26292045
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
藤原 伸介 関西学院大学, 理工学部, 教授 (90263219)
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研究分担者 |
跡見 晴幸 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90243047)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アーキア / ヘリカーゼ / ポリアミン / 低温適応 / 好熱菌 |
研究実績の概要 |
超好熱菌Thermococcus kodakarensisは85℃を至適温度に生育する。60℃で低温誘導されるRNAヘリカーゼ(Tk-DeaD)遺伝子の発現は、リボソーム結合部位(SD配列)から開始コドンまでに存在するアデニンの連続配列領域によって支配される。Tk-DeaD 遺伝子にみられた配列と類似の配列は低温誘導型の遺伝子 54 種類のうち、19 遺伝子で認められた。これら遺伝子群には、SD 配列から開始コドンまでの間にアデニンまたはチミンが連続した配列が存在した。変異解析を行ったところ、これら遺伝子の低温誘導は、高温で特異的に起こる温度依存的な転写終結premature terminationに起因すると考察できる。 低温誘導型ヘリカーゼTk-DeaDの性質を、他のSF2ヘリカーゼ(Tk-DeaD、Tk-EshA、TK0450、TK0460、TK0928)と比較した。Tk-DeaD は分子内に形成された二次構造、5'末端部分が突出した2本鎖DNAを効率的に解消する一方、5’末 端が突出した dsDNA に対しては作用しなかった。Tk-DeaDのアンワインド活性の特徴が、細胞の低温適応にどのように関与しているのかは明かではない。他のヘリカーゼの活性を検証することでこの点を考察したい。 T. kodakarensisの分岐鎖ポリアミンであるN4-ビスアミノプロピルスペルミジン[3(3)(3)4]の合成酵素であるBpsAについて反応速度論解析を行った。本酵素はピンポンBi Bi機構で反応が進行する事が示された。 低温誘導型シャペロニンCpkAに注目し、変異導入により、より低い温度で機能する改変型CpkAを構築した。この変異遺伝子をT.kodakarensisの野生型cpkA遺伝子と置換して、生育温度範囲への影響、特に低温域での生育の向上が認められるか検証したところ、野生株に比べて明らかに低温での生育向上がみられた。この結果はCpkAが低温で変性するタンパク質を積極的に再生し、より低温での適応を支援したことを強く示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた研究項目のうち、低温誘導遺伝子の精密プロファイリング、および誘導遺伝子の機能予測と誘導機構の解明は順調に進んだ。低温誘導が高温特異的な転写終結によってなされることを解明できたことは意義深い。またTk-DeaD遺伝子(TK0306)以外の低温誘導遺伝子においても、保存配列の重要性を示すことができた。低温誘導型ヘリカーゼTk-DeaDの性質に関しても他のヘリカーゼと比較することで、遺伝子発現制御に関与することが予想された。本酵素が果たす役割として、他の低温遺伝子の発現制御に関与している可能性がある。また、低温誘導型シャペロンの機能解析も順調に進み、好熱性生物が低温ストレス下で生き抜く上で分子シャペロニンの重要性を示す意義深い結果を得ることができた。分岐型ポリアミンの合成制御を支配するBpsAに関しても酵素の反応速度論的解析を行い、制御機構を解明することができた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年、緊急性の高い大型冷却遠心機を購入したため、申請時に予定していた新型の嫌気ボックス導入は見合わせる。現有の設備をメンテナンス、補強し、研究を遂行する。研究内容としてあげている「低温誘導遺伝子の精密プロファイリング」及び「誘導機構の解明」は継続して行う。ヘリカーゼについては、複数の酵素の特性を検証し、低温誘導で必要なヘリカーゼの性質を明らかにしたい。また前年度に続き「低温誘導型シャペロンの機能解析」は、他の好熱菌においても同様の分子シャペロニンが存在するか、またその必須性についても研究する。平成28年度はポリアミンの組成変動が遺伝子の発現制御に与える影響に関して、注目し研究を行う。具体的には分岐鎖ポリアミンを合成できない変異株を構築し、これを用いて遺伝子の発現解析(トランスクリプトーム)を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に次世代シーケンサーを利用したトランスクリプトーム解析を行う予定である。また、遺伝子欠損株を構築するための高額試薬(フルオロオロト酸等)の購入を想定し、これらにかかる費用(物品費)を勘案し、27年度予算の一部を繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでマイクロアレイを用いてトランスクリプトームを行っていたが、実験の正確性を考慮し、次世代シーケンサーを用いた実験(qRT-seq法)を行うこととした。それに伴い、生化学実験用試薬、遺伝子組み換え実験用試薬、微生物(大腸菌、超好熱菌)培養用試薬、実験器具の整備にかかる費用を想定し、物品費を計上した。研究成果発表を国際ポリアミン学会(9月ローマ)で行うため、海外出張を想定した旅費を加えた。最終年度の成果発表として学術誌への投稿を想定し、それにかかる費用(校閲代金、掲載料)を考慮して予算計上を行った。
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