研究課題/領域番号 |
26292046
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
仁木 宏典 国立遺伝学研究所, 系統生物研究センター, 教授 (70208122)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 菌糸 / 光応答 / 細胞極性 / 転写因子 |
研究実績の概要 |
ジャポニカス分裂酵母に固有の401遺伝子の中に菌糸形成に関与する遺伝子が存在するか明らかにする目的で、これら遺伝子の欠損させた変異株コレクションの作製を進めた。これまでに約150遺伝子については遺伝子破壊が確認できた。残りのものは増殖に必須か、または遺伝子破壊方法の問題により分離できていないかどちらであると考え、さらに遺伝子破壊を試みている。すでに分離できた遺伝子破壊株については菌糸抑制の変異体などのスリーニングを行なった。その結果、菌糸の光応答が不全になった株を分離した。その破壊遺伝子にはチロシンキナーゼの活性化ドメインを有するタンパク質がコードされており、菌糸だけでなく酵母細胞時の光依存的な接合能も同時に失っていた。 他方、ジャポニカス分裂酵母の光活性型転写因子Wcs1、Wcs2についてはタンパク質のドメイン構成を酵母ツーハイブリッド法により調べた。Wcs2はWcs1とタンパク質相互作用することを確認し、さらに欠失遺伝子からの産物からWcs1とタンパク質相互作用に必須な領域を特定した。この領域には典型的なPASドメインの配列は保存されていない。しかしながら、タンパク質の2次構造には類似性があった。またWcs1どうしのタンパク質相互作用も確認し、フラビン結合領域がこの活性に関与していることを明らかにした。また、Wcs1には核移行シグナルがあり細胞周期を通じて核に局在している。おそらくWcs2はWcs1に結合することで核移行できるものと考えられる。 菌糸の転換変異体の解析では次世代シーケンサーを使い変異の候補をリストアップし、遺伝子相補テストにより原因遺伝子の特定を進めた。そのなかにはクロマチンリモデリング複合体Ino80のサブユニットであるArp8、カルシニューリン応答性転写因子Prz1、RNA結合性タンパク質Csx1、ADPリボシル化因子Arf1、タンパク質リン酸化制御因子のサブユニットPab1が特定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジャポニカス酵母に固有の遺伝子については破壊株の作製が順調に進んでおり、この中から菌糸の増殖に関する変異の有無のスクリーニングが進んでいる。次世代シーケンサーを利用して変異遺伝子の特定システムがうまく稼働しており、効率よく原因遺伝子の特定ができるようになっている。これまでに分離した菌糸誘導変異体の解析も順調にすすみ計画どおりに進行している。
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今後の研究の推進方策 |
ジャポニカス分裂酵母に固有な遺伝子の欠失遺伝子コレクションの変異体について、光と温度の刺激に対する応答について調べる。応答機能を完全に失った変異体や、応答のパターンが変化したような変異体の分離が期待できる。変異遺伝子それぞれの遺伝子産物の機能について、ゲノム情報からその機能を予測する。特に、温度にのみ応答能を失った変異体は温度センサー因子の有力な候補であるので、精製してその生化学的な特性を調べる。さらに温度センサーと転写因子との機能的な関係も因子の構造を元に明らかにする。 Wcs1とWcs2は複合体を形成し、転写因子として機能すると考えられる。Wcs1-2複合体により発動される遺伝子群を明らかにすることが光や温度の応答経全体を解明するためには必須である。次世代シーケンサーを利用した方法により、これらの遺伝子群を探索する。まずWcs1―Wcs2複合体のDNA結合配列の解析するため、Wcs1-2複合体の特異的なDNA結合領域を決定する。これが認識するDNAの標的配列を探索する。そのために光や温度の刺激の前後で、Wcs1-2複合体への抗体を利用したクロマチン免疫沈降実験を行なう。これにより沈降してきたゲノムDNAの配列を次世代シーケンサーで解析する。クロマチン免疫沈降してきたDNAに対して、DNAase処理を加えることで特定の領域へのDNA結合を検出できるようになる。RNAの発現パターンによる光や温度の応答遺伝子の特定 するためには、光や温度の刺激の前後で、細胞から発現しているmRNAを抽出して刺激前後での遺伝子発現の変動を調べる。これにより、光や温度に応答する遺伝子を特定する。さらに、光や温度に応答しない変異体の発現パターンを解析することで、実際にこれらの外部刺激により発現の影響を受ける遺伝子を特定する。同定された遺伝子は欠損株を作製し、明暗応答しないことを確かめる。
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