分裂酵母族4種の中で、ジャポニカス分裂酵母に固有な252遺伝子のうち248遺伝子について欠失変異株の作成が完了した。この遺伝子欠失株の中から、光と温度の刺激に対する応答について調べた結果、光応答能を失った欠失変異株が3株、温度応答能を失った欠失変異株が1株見つかった。光応答能を失った欠失変異株のうち2株はそれぞれwcs1、wcs2の欠失変異体であった。残りの欠失変異株は新規遺伝子の欠失変異によるものであった。現在のところ、この遺伝子の相同遺伝子は真菌類のゲノムの中には見出せておらず、ジャポニカス分裂酵母に特有の遺伝子である。他方、温度応答能を失った変異体の原因遺伝子はBTB/POZドメインを有する63kDaのタンパク質をコードしていた。これに相同なタンパク質は少なくとも217種の真菌ゲノムに見つかった。温度応答能に関与する63kDaのタンパク質をコードするこの遺伝子をtrj1と名付けた。次にtrj1のmRNAの発現パターンを温度変化の前後で調べた。25度から30度に培養温度を上げると、trj1のmRNAの発現が誘導され、培養温度を上げてから18時間まで直線的に上昇する。その後18時間をかけて元のレベルまでに戻る。次に25度-12時間と35度-12時間のサイクルで60時間にわたって6時間ごとにmRNAの発現量を調べた。その結果、trj1は24時間ごとにその発現量にピークが見られた。trj1の36時間にわたる長周期のmRNAの発現パターンの変動は33度から35度、30度から32度、25度から27度のいずれの温度変化によっても生じた。このことは、この温度応答は温度の変動を感知して誘導されるということを示唆している。またTrj1のタンパク質にアミノ酸置換変異を入れBTB/POZドメインとC末のドメインが温度応答に重要な機能を持つことも明らかにした。
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