研究課題/領域番号 |
26292047
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大熊 盛也 独立行政法人理化学研究所, バイオリソースセンター, 室長 (10270597)
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研究分担者 |
野田 悟子 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (80342830)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 窒素固定 / 微生物ゲノム / 微生物進化 / 生物多様性 / 難培養微生物 |
研究実績の概要 |
ゲノム配列が解読されたBacteroidetes門細菌の1346のゲノム配列情報を検索して、窒素固定機能に必須と考えられているnifH, nifD, nifK, nifE, nifN, nifBの6つの遺伝子をもつ総計8種の細菌を同定した。いずれもBacteroidetes門のなかのBacteroidales目に属する種であったが、Candidatus Azobacteroides属、Paludibacter属、Bacteroides属、Dysgonomonas 属、Geofilum属、Saccharicrinis属の種で、目内の広い系統に分散しており、分離源も様々な環境であった。これらのうち、5種については、実際にアセチレン還元法にて窒素固定活性を検出した。系統解析の結果、8種の細菌の窒素固定遺伝子は嫌気性細菌が有する窒素固定遺伝子の系統の中で単系統となった。窒素固定能はBacteroidales目の祖先が有していた機能がこれら8種に残っているもので、他の多くの目内の系統では恐らく生態と関連して窒素固定能を失ったものと考えられた。また、自然環境中から培養を介さずに直接解析されたnifH遺伝子配列のなかで、シロアリ腸内から得られた遺伝子配列の多くがこれらBacteroidales目細菌の窒素固定遺伝子に相同であり、Bacteroidales目の細菌がシロアリ腸内での窒素固定に重要な役割を果たしていると考えられた。この他に、2種のBacteroidales目細菌のゲノムにおいて、窒素固定遺伝子に低い相同性を有するが、窒素固定には働かない機能未知の遺伝子も見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
窒素固定機能に関しては、Bacteroidales門のゲノム情報の検索、系統解析、活性測定が完了し、その進化過程も推定することができた。Bacteroidales門細菌のゲノムから見いだした遺伝子配列との比較から、シロアリ腸内での窒素固定にこの門の細菌が重要であることも確認された。既にシロアリ腸内の細菌のシングルセルでのゲノム情報の解析も進めている。水素利用機能についても、Bacteroidales門細菌の代表的な細菌種において、関与が推定される古細菌のホモログ遺伝子を有しているが既知の典型的なヒドロゲナーゼ遺伝子をもたないものを見いだしており、活性測定などで解析ができる状態となっている。概ね計画どおり順調に研究を推進していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
窒素固定機能に関しては、シロアリ腸内共生細菌のシングルセルでの解析を進め、共生細菌の系統と窒素固定遺伝子の系統を比較解析し、それらの進化過程を推定する。高分圧の水素存在下での窒素固定活性を測定して評価するが、腸内の水素分圧が高いシロアリの共生細菌でも活性への影響を評価する。また、水素利用機能について、古細菌のホモログ遺伝子を有しているが既知の典型的なヒドロゲナーゼ遺伝子をもたないBacteroidetes門の細菌について、水素利用ヒドロゲナーゼ活性を測定する。培養条件や酸化還元指示薬である電子受容体についても検討する。活性が検出された場合、非変性ゲルでの電気泳動で活性染色したタンパク質を同定して、古細菌のホモログ遺伝子が水素利用活性に関与するのかを調べる。さらに、遺伝子のノックアウトや異種発現でより詳細な解析を試みる。シロアリ腸内共生細菌についても、シングルセル解析で細菌の系統と古細菌のホモログ遺伝子の系統を比較解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度予定していた水素利用についてのヒドロゲナーゼ活性の測定ができなかった。嫌気的な培養に時間と労力を有することと、培養条件を確認するために時間を要したためである。これにより、活性測定のために予定していた研究費が使用できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
培養条件が設定でき、十分な微生物株の細胞量が得られることが確認できた後に、活性測定のための試薬等を購入して活性測定を実施する。
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