研究課題/領域番号 |
26292048
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
宮崎 健太郎 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 研究グループ長 (60344123)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | リボソーム / 16S rRNA / 適応進化 / 宿主 / 機能改変 |
研究実績の概要 |
昨年度までに、大腸菌rrnオペロン完全欠損株Δ7を宿主とした異種16S rRNAの機能相補株として、大腸菌とは門レベルで異なるAcidobacteriaに帰属される16S rRNAを複数単離した。配列相同性は78-79%程度であった。 Acidobacteria門16S rRNAの中でも最も生育に遅れの見られたNS5株について、継代培養による生育復帰株の獲得を試みた。NS5株を3系統(A, B, C)に分け、対数増殖期に菌体を植え継ぐ方法で37℃、栄養培地にて連続培養を行った。2週間後に各系統から3株ずつを寒天培地上で単離した。これらの株よりゲノムDNAを調製し、新学術領域「ゲノム支援」の支援を受け、全ゲノム解析を行った。 その結果、各系統のいずれの3株も独立した変異株であり、A系統及び B系統の各3株において、同一のリボソームタンパク質をコードする遺伝子内にアミノ酸置換を伴う塩基変異を見出した。A系統、B系統では別々のアミノ酸置換であり、これらの変異が適応進化の原因であることが強く示唆された。大腸菌リボソームの立体構造上の位置を確認したところ、16S rRNAと変異アミノ酸部位との距離が3オングストローム以内であった。C系統においては、A, B系統とは別のリボソームタンパク質中に塩基置換を見出した。これらは3株間で共有されていた。 Acidobacteria由来16S rRNAのNS11については大腸菌16S rRNAとドメインキメラを作成し、生育速度を比較した。その結果、3'マイナードメインを置換したものについて大幅な生育回復が見られた。さらに部位特異的な塩基置換により重要な部位を絞り込んだところ、わずか1塩基対を大腸菌型に変えることで同等の生育復帰が観察された。300塩基以上の異なる16S rRNAでもわずか数塩基の置換で機能回復が見られることは、大半の異なる塩基が機能的に中立であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
大腸菌16S rRNAの欠損株を相補する異種16S rRNAをスクリーニングするという手法により、大腸菌とは系統的に門レベルで異なる生物由来の16S rRNA(Acidobacteria由来)を獲得したことは、16S rRNAが進化系統的な分子マーカーとして確立されていることに鑑み非常に驚きであり、インパクトは大きい。 さらに、Acidobacteria 16S rRNAの一つ、NS5の増殖復帰実験により、生育復帰株を得た。この復帰株獲得には最大でも2週間しか要しておらず、従来の長期にわたる継代培養よりもはるかに短時間であった。このことは、リボソームの可塑性を示している。また、新学術領域「ゲノム支援」による支援解析を受けることができ、全ゲノムレベルでの比較解析までを加速的に進めることができた。リボソーム可塑性の実験的な証明と進化実験によるさらなる確証は、当初の計画以上に大きな進展であった。 また、Acidobacteria 16S rRNAの一つNS11株については、配列ー機能相関に供し、わずか数塩基の置換で生育復帰を果たすことができることを証明した。このことは、リボソームの機能不全を16S rRNA内の復帰変異やリボソームタンパク質の変異など、複数のルートで可能なことを示している。また変異の多くが中立であることは、16S rRNAが進化分子時計としてふさわしいことの証明でもある。 上記の通り、本年度は、リボソームの機能可塑性について、様々な角度から証明することができ、当初の予定をはるかに上回る成果を得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
NS5株を用いた進化実験では、ゲノム変異の他に異種16S rRNA(23S, 5S rRNA、その他、レプリコン、薬剤耐性マーカーなど)を含むプラスミド上の変異を含んでいる可能性がある。平成28年度は、進化の基盤をプラスミドや宿主リフレッシュ実験などによる確定する。また、生育復帰株や元株のトランスクリプトーム解析も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
16S rRNA置換株の継代培養実験により幾つかの生育復帰株を得た。これらについて全ゲノム解析を行うことを計画していたが、大規模な実験になるため、新学術領域「ゲノム支援」への支援を提案し、採択された。結果、当該プロジェクト内で行う予定であった実験の一部を、新学術領域「ゲノム支援」内で行うことができたため、未消化予算が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
新学術領域「ゲノム支援」で得られた解析結果について、解析を続行するとともに、異なる16S rRNA保持株からスタートした際の変異蓄積パターンなども比較する。 NS5株を用いた進化実験では、ゲノム変異の他に異種16S rRNA(23S, 5S rRNA、その他、レプリコン、薬剤耐性マーカーなど)を含むプラスミド上の変異を含んでいる可能性がある。平成28年度は、進化の基盤をプラスミドや宿主リフレッシュ実験などによる確定する。
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