研究課題/領域番号 |
26292051
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山篠 貴史 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (00314005)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 概日リズム / 温度 / 生物時計 / 遺伝子発現 / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
一般に、明暗サイクル環境下の生物時計は暗期における温度変化に感受性を示すことが知られている。シロイヌナズナにおいて暗期前半および後半の温度入力(22度から28度への高温シフト)は概日リズムをそれぞれ後退、前進させるリセットシグナルとして機能する。高等植物の時計をリセットする温度入力機構を解析したところ、明期終了時刻(夕刻)に転写レベルで誘導されるELF3、ELF4遺伝子の産物が温度感受性を示し、本来暗期に細胞核内に蓄積するLUX/PCL1-ELF3-ELF4転写制御因子複合体(Evening Complex[EC])の含量が高温入力に応答して低下し、ECターゲット遺伝子の発現が脱抑制されることを明らかにした。高温におけるELF3, ELF4の安定性の調節にはco-chaperone活性を有する巨大分子GIタンパク質が関与していることを見いだした。一方、ECのDNA結合活性を担っているLUXタンパク質の細胞内含量は温度変化に非感受性であったが、elf3変異体背景ではターゲット遺伝子PRR7のプロモーター近傍にin vivoで結合できないことをクロマチン免疫沈降(ChIP)実験により明らかにした。次に、PRR7の発現調節領域の一部を欠損しているためにECによる調節が不完全であると考えられるPRR7(incomplete)promoter:PRR7コンストラクトを構築しprr7変異体背景に導入することにより、PRR7の発現が野生株より3時間早まる形質転換体を得ることに成功した。興味深いことに、PRR7(incomplete)promoter:PRR7/prr7形質転換植物はCCA1, LHY, TOC1, LUX, ELF3, ELF4を含むシロイヌナズナの中心振動体を構成するすべての遺伝子の位相が3時間前進していることが判明した。以上の結果より、温度入力はELF3の核内含量を介してECの活性調節に結びついていること、ECのdirect targetであるPRR7の位相変化は他の時計遺伝子の位相応答に直結する、すなわち、PRR7の位相は概日リズムの位相を決定していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度はLUX/PCL1-ELF3-ELF4転写調節因子複合体の中でDNA結合タンパク質として機能するLUXのDNA結合活性はELF3の存在に依存していることを明らかにするとともに、ELF3, ELF4タンパク質の細胞核内含量は温度感受性を示すことを明らかにした。当初の目的に加えて、LUX/PCL1-ELF3-ELF4転写調節因子複合体の直接のターゲット遺伝子であるPRR7の発現位相が概日リズムの位相決定を司ることを示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後はこれまでに明らかにしてきた、昼夜の変化に時計を同調させるための概日リズムの温度リセット機構を利用して、温度に応答した成長制御に応用したいと考えている。申請者は、bHLH 型転写因子 PIF4/5 に依存して短日条件特的に観察される植物の伸張生長を説明するための外的符号モデルを提唱している(Yamashino Biosci. Biotechnol. Biochem. 77, 10-16, 2013)。それは、内因性の時計機構に支えられた PIF4mRNA 概日リズム(主観的昼にピーク)と外因性の光による PIF4 protein 活性制御(暗所で活性化)とにより、短日条件の夜明け前に PIF4 が活性化する機構である。申請者らは長日条件でも高温ではELF3に依存してPIF4の発現開始が早まることを発見した(Nomoto et al. Plant Cell Physiol. 53, 1965-1973, 2012)。このことは、PIF4もPRR9/7同様の制御を受けている、すなわち、ELF3 によって直接温度応答が制御されている遺伝子が PRR 以外にも存在することを示唆している。そこで、暗期後半(前半)の温度入力に対して ELF3 に依存して発現が早まる(遅れる)遺伝子をELF3:ELF3-YFP 形質転換体を用いた ChIP-Seq 解析とelf3 変異体を用いた RNA-Seq 解析からの結果を統合し、 ゲノムワイドに同定する。同定した遺伝子の機能解析を通じて、植物時計のリセット機構を基盤とした新たな成長制御システムの発見をめざす。最終的にはリセット遺伝子の性質を改変・利用(転写抑制因子である PRR に活性化 domain(VP16)付与、温度応答性のない PRR5 に PRR7 promoter の温度応答性を付与など)することにより、時計機構の特性および時計支配下にある遺伝子発現を人工制御し、植物成長制御に応用できる可能性を拓きたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
植物時計の中心振動体タンパク質の多くは転写調節因子としての活性をもっており、転写翻訳フィードバックループを形成している。これらのタンパク質を検出するためには抽出や精製分離過程での条件検討が不可欠であると当初考えられた。実際には、首尾よく目的タンパク質を検出する実験系を構築することができた。その結果、時計因子の発現は転写レベルのみならず、遺伝子産物の修飾や安定性も含んで複雑に調節されていることがわかってきた。さらに、タンパク質の安定性に関わるドメインやそのドメイン内のリン酸化修飾の可能性が示唆されてきた。
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次年度使用額の使用計画 |
時計因子の発現は転写レベルのみならず、遺伝子産物の修飾や安定性も含んで複雑に調節されていることがわかってきた。さらに、タンパク質の安定性に関わるドメインやそのドメイン内のリン酸化修飾の可能性が示唆されてきた。これらの結果を受けて、短周期、長周期、無周期変異体背景で時計遺伝子の完全長および特定の機能ドメインをコードする部分配列だけを発現させて産物を検出できる実験系が整ってきたので、時計タンパク質内に存在する機能未知ドメインの活性やリン酸化修飾とタンパク質安定性との相関を明らかにすることを計画している。
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