研究実績の概要 |
概日時計のリセット機構は昼夜の変化に時計を同調させるためだけでなく、光・温度に応答した植物の発生および成長可塑性を制御している。このことは、概日時計の中心振動体の入力刺激に対する位相応答が出力系遺伝子の時間特異的発現に深くリンクしていることを示唆している。前年度までの研究の結果、概日時計をリセットする暗期の光・温度パルスシグナル(リセットシグナル)はEvening Complex(EC)とよばれるLUX-ELF3-ELF4複合体の活性を調節する情報伝達経路上で統合され、ECの転写抑制因子としての活性を阻害することが明らかになった。そこで、ECに依存して暗期入力に応答性を示す出力系関連遺伝子を網羅的に同定するためにトランスクリプトーム解析を実施した。具体的には、シロイヌナズナのmicro arrayを用いて暗期後半の温度パルスの有無によるphase advance response(位相前進応答)を野生型とelf3変異体背景でゲノムワイドに比較解析した。その結果、EC支配下の遺伝子を網羅的に同定することに成功し、平成27年度に詳細に解析したPRR9, PRR7, LNK1に加えてGI, LUX, PIF4, DOG1, ASN1もECに依存してリセットシグナルに応答性を示すことが明らかになった。これらの遺伝子プロモーター近傍には前年度の解析で同定したPRR7, PRR9遺伝子上流に存在するLUX binding siteが存在し、クロマチン免疫沈降(ChIP)実験によりin vivoでECが直接結合していることを明らかにした。以上の結果から、ECは振動体タンパク質だけでなく特定の出力系関連遺伝子の発現を直接制御することによりリセットシグナルによる時計機構の位相応答と連動して出力経路の活性化が同期する機構が存在することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究計画を遂行することにより、植物の発生や成長可塑性を制御する概日時計からの出力経路に位置する遺伝子のうち、ECのdirectターゲット遺伝子を複数(PIF4, DOG1, ASN1)同定することに成功した。同定した遺伝子の機能解析から以下の新規の知見が得られてきている。フィトクロム相互作用因子(Phytochrome Intereracting Factor, PIF)については、発現が時計支配下で概日リズムをもつPIF4と時計に依存しないPIF7が存在し、それぞれ日長と光質を感知して相加的に芽生えの伸長成長を活性化することがわかってきた。PIF4同様に本研究でECにより直接発現が制御されることが判明したDELAY OF GERMINATION1(DOG1)とGLUTAMINE-DEPENDENT ASPARAGINE SYNTHASE 1(ASN1)遺伝子はそれぞれ、発芽のタイミングや炭素源の枯渇に適応するために機能していることが推定された。興味深いことにこれらの遺伝子発現は日周レベルで変動し、暗期後半の温度入力に応答して位相が前進した。このことは、domancyや炭素代謝が時間情報やリセットシグナルに応答して調節されていることを示唆しており、植物時計の多様な生理的役割を見いだすことができた。
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