平成28年度は、アミロイドβペプチド(Aβ42)の細胞内蓄積による細胞死の機構を解明した。Aβ42は細胞外で産生されるので、化学的に合成したAβ42をヒト神経芽腫細胞SH-SY5Y細胞に添加したところ、オリゴマー化したAβ42がリソソームに蓄積することがわかった。さらに、オリゴマー化傾向の異なるAβ42変異体を添加したところ、オリゴマー化の程度に依存してリソソームへの蓄積量が増加し、細胞死も増加した。Aβ42はin vitro においてオリゴマー化の程度に比例してROSを産生することが知られており、リソソームに蓄積したAβ42はリソソーム膜酸化とリソソーム膜崩壊を引き起こした。そこで、リソソーム膜にターゲットさせた抗酸化酵素Prx1の過剰発現やリソソーム膜からのコレステロール排出を抑制することでリソソーム膜を安定化させるU18666Aの添加は、Aβ42蓄積によるリソソーム膜崩壊や細胞死を抑制することを明らかにした。生体内の主要な抗酸化化合物であるグルタチオンの前駆体であるNACも弱いながらも同様な効果を示した。したがって、Aβ42は細胞内に取り込まれ、リソソームにオリゴマーとして蓄積してROSを産生し、リソソーム膜を酸化させ、さらにはリソソーム膜を崩壊させ、最終的に細胞死を引き起こすことを明らかにした。また、リソソームに対する抗酸化処理はAβ42のリソソーム蓄積に伴うリソソーム膜崩壊や細胞死を抑制できることも明らかとなった。
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