研究課題/領域番号 |
26292054
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
竹川 薫 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (50197282)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ピルビン酸 / 分裂酵母 / 酸性糖鎖 / N-結合型糖鎖 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は基質特異性を改変した分裂酵母のピルビン酸転移酵素Pvg1を用いて新奇なピルビン酸含有N-結合型糖鎖および糖タンパク質を合成する手法を確立する。さらにピルビン酸含有糖タンパク質が高等動物生体内でどのような動態を示すのか明らかにすることである。 分裂酵母において糖鎖中の唯一の酸性残基としてピルビン酸である。糖タンパク質糖鎖へのピルビン酸の付加は、真核生物では全く報告が無い。申請者は分裂酵母Pvg1タンパク質がホスホエノールピルビン酸を基質としてガラクトースへピルビン酸を転移する活性を有していることを明らかにした。本酵素の基質特異性を調べたところ、ラクトース(Galβ1,4Glc)のガラクトースへはピルビン酸を付加できたが、ヒト複合型糖鎖の基本骨格であるGalβ1,4GlcNAcへは転移することが出来なかった。そこで本酵素の反応メカニズムや基質認識機構をさらに詳細に解析を行うため、大腸菌で生産した組換えPvg1タンパク質のX線構造解析を行った。その結果、本酵素の立体構造を明らかにすることができた。本酵素の活性中心付近の構造解析から、基質となりうる二糖としてラクトースを配置した所、還元末端のグルコースの2位の位置に168番目のヒスチジンが極めて隣接していることが予想され、ヒスチジン残基がGalβ1,4GlcNAcへのピルビン酸の転移を阻害していることが示唆された。今回、168番目のヒスチジンを19種全てのアミノ酸に置換した変異体を作成したところ、システインに置換した変異体が最も効率良く、Galβ1,4GlcNAcへピルビン酸を付加することがわかった。そこで本変異体を用いてアシアロ2本鎖ヒト複合型糖鎖へピルビン酸の転移を試み、実際に2つの非還元末端ガラクトースにピルビン酸が付加した新奇糖鎖を酵素合成することができた。現在、これらの糖鎖の特性について解析を行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請を行なった当初は分裂酵母のピルビン酸転移酵素Pvg1の立体構造解析が終了したところで、なぜラクトースのガラクトース残基にはピルビン酸を転移できるがGalβ1,4GlcNAcへは転移できないのか、不明であった。立体構造解析結果から168番目のヒスチジンがGalβ1,4GlcNAcのGlcNAc2位のアセチル基と立体障害を引き起こしている可能性が示唆された。実際にこのヒスチジンをシステインに変換することで、本酵素の基質特異性を変化できたことは立体構造解析の大きな成果である。そして今年度の研究で、実際にシアル酸の代わりにピルビン酸を付加した2本鎖複合型糖鎖を合成することができた。この糖鎖はこれまで誰も合成したことがなく、新たなバイオ医薬品のツールとして、非常に期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の実験から、ピルビン酸転移酵素Pvg1変異体を用いれば、実際にシアル酸の代わりにピルビン酸を付加した2本鎖複合型糖鎖を合成することができることが証明できた。この糖鎖はこれまで誰も合成したことがなく、新たなバイオ医薬品のツールとして、非常に期待できる。そこで、本糖鎖の特異性について、産業技術総合研究所の平林・舘野博士らが開発したレクチンマイクロアレイを利用して、レクチンとの特異性について解析を行いたい。 次に実際にピルビン酸化複合型糖鎖をタンパク質に結合させることで、高等動物血液中での挙動について解析を行いたい。糖ペプチドとしては卵黄から大量に調製可能であり、後の68Gaラベル実験が可能なリジン残基を2つもったシアリルグリコペプチド(SGP)を用いる。SGPのシアル酸を除去したアシアロGPへPvg1変異体によりピルビン酸を付加させ、ピルビン酸含有糖ペプチドの合成を行う。また糖タンパク質のモデルとしてSGPと同様に、2本鎖の複合型N-結合型糖鎖を持ったヒトトランスフェリンを使用する。 ピルビン酸含有糖鎖を持つ、ネオ糖タンパク質が合成できた場合には、高等動物血液中での滞留時間について解析を行いたい。ピルビン酸含有糖タンパク質の高等動物血液中での安定性に関しては、理化学研究所准主任研究員の田中博士に共同研究をお願いしている。ピルビン酸含有糖鎖を持った糖タンパク質は高等動物の血液中をシアル酸含有糖鎖よりも安定に滞留できることが期待され、本申請により効率的な糖タンパク質の合成方法が確立すれば、新たな糖タンパク質医薬品として適用可能であるか検討を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始当初はピルビン酸転移酵素変異体のさらなる改良を行う必要があると考えていたが、実際に最初に得られた変異体でもヒト型糖鎖にピルビン酸を付加できることがわかった。そのため、当初の予定よりも試薬類やオリゴヌクレオチド合成経費を節約することができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度以降はピルビン酸転移酵素変異体を大量に調製するための経費とヒトトランスフェリンなどの高価な糖タンパク質のために経費を使用したいと考えている。
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