研究課題
平成27年度には、シクロオクタチン生合成のためのテルペン環化酵素CotB2の活性中心ポケット中で環化反応に重要な役割をしていると考えられるアミノ酸残基に変異を導入した変異酵素を作製した。具体的には、基質結合に重要と考えられるD110、D111、D113、反応カスケードの最終段階でカチオン消去のために水酸基を導入するのに重要な役割を果たすと考えられるS84、N103、T106や、カチオンの安定化に寄与すると考えられる芳香族アミノ酸残基のF107、F149、F185、W186、W288に変異を導入した変異酵素25種を作製した。これらの作製した変異酵素の活性測定を実施し、また、新たに生成物が検出された場合には、それらを精製して構造決定を行うことで、CotB2による立体選択的テルペン環化反応機構を当初の予定通り説明することができた。さらには、そのCotB2反応機構は、密度汎関数理論を用いた量子化学の計算によっても支持されることを示すことができた。放線菌由来cyclolavandulyl diphosphate合成酵素(CLDS)については、予定より進行し結晶化ができたのでX線構造解析に進み、解像度は高くはないながらもその全体構造を解くことができた。カルキノスタチンとラバンデュキノシン生産放線菌のドラフトゲノム解析を行いゲノム配列を得た。それらの配列を比較することにより、それぞれの生合成遺伝子クラスターを同定することに成功した。さらには、それぞれの遺伝子クラスターからカルバゾール骨格にプレニル基を転移するプレニルトランスフェラーゼを同定し、大腸菌を用いて組換え酵素の調製にも成功した。また、本組換え酵素がカルバゾールとカルバゾール2-アルコールにプレニル基を付加することを明らかにすることができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題では、テルペン合成酵素として、いずれも放線菌由来のCotB2、CLDS、SCLAV_p0765、CarPTaseを研究材料に用いて、合成化学と構造生物学を利用してユニークな反応機構の解明を目指している。平成27年度までに当初の計画通りCotB2の結晶構造を高い解像度で解明することができ、さらに変異酵素を作製して解析することで、最終年度に向けてより詳細な反応機構の提示に近づきつつある。CLDSについては、解像度は高くはないものの予定通り全体の結晶構造を解くことができた。今後、さらに結晶化条件をスクリーニングすることでより解像度の高い構造を提唱することができると考えている。また、変異酵素のレパートリーを増やし、それらの変異酵素が与える生産物の構造解析を行うこと、さらには合成した安定同位体標識基質を用いることで、より詳細な反応機構に迫ることができると考えている。CarPTaseについては遺伝子の同定が完了し、大腸菌を用いた組換え酵素の調製も可能になったことから、予定通り生理的基質の同定に進むことができる。テルペン合成酵素SCLAV_p0765については、大腸菌を用いて組換え酵素を調製できるものの安定性に難があり、結晶化スクリーニングにおいて沈殿が生じやすい状況にあり、現在までにその安定化に取り組んではいるが良好な結晶化条件は見出せておらず、本酵素に関してのみやや遅れている。以上の成果を「研究の目的」や交付申請書に記載した平成28年3月までの研究実施計画に照らし合わせて、おおむね順調に進展していると判断した。
シクロオクタチン生合成のためのテルペン環化酵素CotB2については、さらに重要なアミノ酸残基に変異導入することで得られる生成物の構造解析を進める。その後、これまでの反応機構の解明とX線構造解析の結果を統合した内容で論文としてまとめ、高いインパクトの科学雑誌に投稿する。cyclolavandulyl diphosphate合成酵素(CLDS)の反応機構を解明するため、重水中での酵素反応を試みる。また、基質であるジメチルアリル2リン酸(DMAPP)の重水素置換体を合成し、反応産物であるcyclolavandulyl diphosphateにおける重水素の位置を決定する。CLDSの結晶構造の解像度を高めるため、基質または基質アナログとの共結晶化や結晶化条件のさらなるスクリーニングを推進する。また、活性中心ポケット内のアミノ酸残基への変異導入と活性測定を行い、これらの実験結果を統合することでCLDSの推定反応機構を検証する。特に、環化が進行することなく反応中間体と考えられるlavandulyl diphosphateを与えるような変異酵素の作出を試みる。カルキノスタチンやラバンデュキノシン生産菌におけるCarPTaseの生理的基質の同定を試みる。そのためには、CarPTase遺伝子の破壊株を作製する。または、それぞれの生合成遺伝子クラスターをゲノム組込み型のコスミドベクターにクローニングして異種生産系を構築する。いずれかの実験系でCarPTase遺伝子破壊株を作製して培養することで未知の生合成中間体を蓄積させ、精製して構造解析することでCarPTaseの生理的基質の同定に繋げる。生理的基質を同定後、酵素学的パラメーターの算出を行う。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 2件、 招待講演 6件) 備考 (5件)
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http://www.chem-station.com/blog/2016/01/terpenebiosynthesis.html