研究課題
本研究では、①2種以上の細胞を起点とする情報伝達・処理神経回路の可視化を実現する新規の経シナプス性トレーサー・トランスジーンをメダカを用いて開発し、②新規トレーサーを用いて、2種以上の基本味の情報伝達・処理経路を区別して可視化し、各経路の相関を明らかにすることを最終目標としている。本年度は以下の成果を得た。メダカ味蕾細胞の1つの細胞種特異的に発現誘導を可能なプロモーターを取得した。複数種の味蕾細胞それぞれに異なる経シナプス性トレーサーを発現するトランスジェニック(Tg)メダカ系統を作出した。それらを交配し、二重Tgメダカを作出した。これらの二重Tgメダカに対し二重IHCを行い、トレーサーの味蕾での発現および味神経への輸送を解析した。この解析によって2種の味蕾細胞を起点とした神経回路の関係性を明らかにすることに成功した。具体的には、味蕾において、tas1r1はplcb22発現細胞の一部に発現する。plcb2:トレーサーA x tas1r1:トレーサーBの二重Tgメダカの味神経において、トレーサーB陽性細胞はトレーサーA陽性細胞の一部であることが観察された。また、plcb2:トレーサーA x tas1r1:トレーサーCの二重Tgメダカの味神経において、トレーサーC陽性細胞はトレーサーA陽性細胞の一部であることが観察された。これらの結果から、解析系が想定通りの神経回路解析系として機能することが示された。続いて、味蕾において別々の細胞集団に発現する遺伝子プロモーターを用いて、これらの味蕾細胞を起点とした神経回路の関係性を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
当初計画では、マウスにおいて、味覚関連遺伝子プロモーターを用いて、開発した新規経シナプス性トレーサー・トランスジーンを味蕾細胞に発現させて、神経回路の関係性を解析することを計画していた。しかし、味覚関連遺伝子が味蕾細胞以外にも、腸管や気管(Avou et al., 2015)、更には、脳中枢神経や味神経にも発現していることが報告されたため(Voigt et al., 2015)、計画を変更することにした。別の課題研究でも取り組むウイルス感染による遺伝子導入によって、これらの問題を回避できると考えている。また、メダカでの解析によって、開発した新規経シナプス性トレーサー・トランスジーンが既存の経シナプス性トレーサー・トランスジーンtWGAと異なり、1シナプスのみを輸送される可能性が高いことが示された。この性質は神経回路解析に有用である。
メダカ解析系において、新規経シナプス性トレーサー・トランスジーンの経シナプス性輸送の詳細を解析する。1シナプスのみを輸送される場合は、複数シナプスを輸送されるtWGAとの併用によって神経回路解析の有用なツールになると期待される。二重Tgメダカを用いた味覚情報伝達・処理神経回路解析について、解析の組み合わせを増やし、少なくともあと3組の回路の関係性を明らかにする。この結果に基づき、味覚情報伝達の仕組みを考察する。マウス味蕾細胞への遺伝子導入法を確立し、マウスでの味覚情報伝達・処理神経回路解析を可能にする。
年度末に学会参加を行った。事前の旅費総額計算が困難であったため、余裕をもって予算を確保した。
物品費として使用し、研究の進展に合わせて臨機応変な対応を可能にする目的で使用する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
J. Histochem. Cytochem.
巻: 64 ページ: 205-215
doi: 10.1369/0022155415626987.
Development
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/ilsi/index.html