研究課題/領域番号 |
26292069
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
河合 慶親 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (50380027)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ポリフェノール / 炎症 / マクロファージ / 抱合体 / 標的分子 |
研究実績の概要 |
本年度は食品中の主要なポリフェノールであるケルセチンに着目して検討を行なった。ヒトにおいて経口摂取したケルセチンは、吸収される過程でquercetin-3’-sulfate(Q3'S)やquercetin-3-glucuronide(Q3GA)などの抱合体へと変換され、血中を多くても数μMの濃度で循環する。そこで、ヒト血中濃度レベルのケルセチンおよびケルセチン抱合体が抗炎症作用を示す可能性について検討を行った。Q3’Sは、ケルセチンとスルファミン酸との反応により調製した。Q3GAは、ハスの葉エキスより単離・精製を行うことで調製した。マウスマクロファージ様細胞株J774.1に対して、LPS処理による炎症誘導を行い、24時間後に培地中のNO量をGriess法によって評価した。ケルセチンおよび抱合体は、LPSとの同時処理に加え、LPS処理の一定時間前あるいは一定時間後に処理する方法を実施した。その結果、2 μMのケルセチンおよび抱合体は、LPSとの同時処理においてはNO産生を全く抑制しなかった。しかし、LPS処理の2~8時間前あるいは4~8時間後に処理したところ、いずれの場合においても2 μMでNO産生を有意に抑制した。また、LPS処理によって分泌されたサイトカイン類を含む培地とともにケルセチンあるいは抱合体を処理したところ、やはりNO産生に対する顕著な抑制効果が認められた。以上の結果より、ヒト血中濃度レベルのケルセチンおよび抱合体は特定の時間帯で働くシグナル経路に作用し、抗炎症作用を示す可能性が示唆された。NO産生につながるシグナル伝達経路におけるケルセチンおよび抱合体の標的分子の探索が今後の課題である。また、ケルセチンの標的タンパク質を探索するためのプローブ合成に着手し、アビジン-ビオチン反応およびクリック反応に応用可能なケルセチンプローブの合成方法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題はポリフェノールの機能性発現機構における標的分子の探索を主な目的としており、本年度はヒト血中濃度レベルの低濃度領域において、ケルセチンやその抱合体がマクロファージにおいて抗炎症作用を発揮するために必要な実験条件を明らかにすることができた。また、次年度においてケルセチンの標的分子を探索するためのプローブ合成方法も確立することができた。以上より、本課題は当初の予定通り順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題をさらに推進するためには、ポリフェノール類の作用標的分子の探索が不可欠である。代表者は平成27年度より徳島大学に異動したが、学内には標的分子探索やポリフェノール代謝物の検出・定量に利用可能な質量分析システムが整備されている。今後は本課題の目的達成のためこれら学内設備の応用を計る。また、細胞系のみならず動物レベルでのメカニズム解析を進めることが重要であることから、平成27年度は動物実験モデルの検討にも着手する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
採用初年度である平成26年度において、高速液体クロマトグラフィーをはじめとする本課題の遂行に必要な機器を整備した。一方、2年目である平成27年度においては、これら機器を用いて確立した実験条件においてポリフェノールの作用標的分子を探索するための試薬類、培養物品等の消耗品に多くの研究費を使用するものと予想した。よって、当該助成金を平成27年度に使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度において、ポリフェノール標的分子探索のためのプローブ合成および標的タンパク質同定を進める予定である。その際に使用する試薬類等消耗品や機器使用料に当該助成金を使用する。
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