【背景と目的】ケルセチンは日常的に摂取される代表的な食品フラボノイドであり、経口摂取するとQuercetin 3'-O-sulfate (Q3'S)やQuercetin 3-O-glucuronide (Q3GA)などの抱合体に代謝され体内を循環する。これまでに、グルクロン酸抱合体であるQ3GAは、マクロファージを標的として集積し、かつマクロファージが有する脱抱合活性によりアグリコンへ変換され抗炎症作用を発揮することが示唆されている。一方、硫酸抱合体であるQ3’Sにおいてはこのような作用は確認されていない。よって、グルクロン酸抱合体からの脱抱合がケルセチンの機能性発現に重要と示唆されている。しかし、Q3GAや脱抱合後のケルセチンアグリコンの標的タンパク質は明らかにされておらず、詳細な作用メカニズムが不明である。そこで本研究では、クリック反応を用いた標的タンパク質の探索のために、Q3GA及びケルセチンにアルキンを導入した化学プローブの合成を試みた。一方、LC-MS/MSによる血中ケルセチン代謝物検出方法を確立し、ヒトにおけるケルセチン代謝パターンについて詳細な解析を試みた。 【方法と結果】ケルセチンのB環をジフェニル化により保護した後、4-ブロモ-1-ブチンを用いて3位の水酸基にアルキンを導入した。酸加水分解によって保護基を外すことで最終生成物を得た。また、Q3GAとプロパルギルアミンとの縮合反応からアルキン化Q3GAを調製した。これらの生成はLC-TOF-MSにより確認した。これらのアルキン化物は元化合物と同程度の抗炎症活性を示したことから、モデルプローブとして利用可能であると考えられた。また、Q3GAおよびQ3'SのLC-MS/MS分析条件を確立し、ケルセチンを摂取したヒト及びマウスの血漿中より、これらケルセチン代謝物の検出が可能となった。
|