研究課題/領域番号 |
26292073
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
山地 亮一 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (00244666)
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研究分担者 |
野中 紘士 大阪府立大学, 総合リハビリテーション学部, 助教 (00565327)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分子栄養学 / シグナル伝達 / 食品 / 発現制御 / 骨格筋 / 女性ホルモン / エストロゲン受容体 |
研究実績の概要 |
食品成分が男女で同じように機能するのかという疑問から性差の顕著な骨格筋量に着目した。後肢筋肉の脱ユビキチン化酵素USP19の発現をノックダウンしたマウスまたはエストロゲン受容体(ER)βアゴニスト活性を持つダイゼインを摂取したマウスでは、♀でのみヒラメ筋量が増加した。本研究では骨格筋量の性差を制御する因子としてのUSP19の位置づけとダイゼインによるUSP19発現制御機構を解明することを目的とする。 本年度は、骨格筋におけるUSP19の役割を検討するため、後肢筋肉のUSP19をノックダウンした♂と♀のマウスで解析したところ、筋量の増加した♀マウスのヒラメ筋では筋線維の断面積の分布度数が大きいサイズ側に移行しており、平均筋断面積値が増加したが、♂マウスでは平均筋断面積値に影響がなかった。つまりUPS19はメスマウスでのみ筋サイズを調節することが判明した。USP19をノックダウンした♀では下肢の等尺性収縮力が増加した。USP19の発現におけるエストロゲン(E2)の影響は♀マウスに限らず、♂マウスにE2を投与した時にもヒラメ筋でUSP19の発現が増加し、筋量が低下した。USP19をノックダウンしたヒラメ筋では、♀マウスでユビキチン化タンパク質レベルが増加したが、♂マウスで影響はなかった。しかし♂マウスにE2を投与するとユビキチン化タンパク質レベルが低下したことから、USP19の発現は生理的条件下でのE2レベルによって制御されていることが示された。またUSP19ノックダウンによりタンパク質合成促進因子であるインスリン様成長因子1の発現レベルが上昇し、mTOR関連タンパク質のリン酸化が亢進するとともにタンパク質合成量が増加した。さらにUSP19の標的タンパク質を探索し、USP19と複合体を形成する1つの候補タンパク質を同定したので、現在解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は正常な生理的条件下ではUSP19による筋量の調節が♀マウスのみで起こっており、またその制御が生理的なエストロゲン濃度によることを明らかにした。またUSP19による筋量調節に関わるシグナル伝達に関する情報を得ることができた。これらの成果は論文として公表することができた。さらに現在解析中ではあるがUSP19と複合体を形成するタンパク質を同定した。
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今後の研究の推進方策 |
生理的濃度のエストロゲンにより若齢♀マウス(8から9週齢)ではUSP19の発現レベルが制御されている。女性でエストロゲン濃度は生涯にわたり変動するため、加齢マウスでのUSP19による筋量の制御が存在するのかを今後検討する予定である。また、エストロゲンは転写因子であるエストロゲン受容体(ER)αまたはERβを介してその生理活性を発揮できる。USP19の発現制御が♂と♀でのERαとERβの発現レベルあるいはERαとERβの活性化の違いによる可能性がある。そこで、♀マウスの骨格筋におけるUSP19の発現制御機構を解明するため、培養細胞系でERαとERβによるUSP19遺伝子の発現制御機構を明らかにし、さらに♀マウスの筋肉におけるERαとERβによるUSP19の発現制御を検討して、USP19の発現が性(♀)特異的に制御されるかも今後評価する。さらにERβアゴニスト活性を持つダイゼインをマウスに摂取させると、♀でヒラメ筋と腓腹筋のUSP19発現レベルが低下し、筋量が増加することから、ダイゼインが生理的に直接筋肉に作用するかを評価するとともに、ダイゼインを摂取した♀マウスにおいてダイゼインがERβを介してUSP19の発現を抑制し、筋肉を量的・質的に変化させることを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本実験でUSP19が若齢の♀マウスで筋量を制御していること、またその制御に生理的濃度でのエストロゲンが関与していることを見いだした。しかし女性では生涯にわたってエストロゲン濃度が変動するため、加齢マウスでのUSP19による筋量調節が起こっているかを評価する必要がある。ブリーダーから購入できるマウスは6ヶ月齢までであり、それ以降の加齢マウス(一般的に寿命は2-3年)は自家繁殖する必要がある。したがって現在加齢マウスの飼育を開始しており、これらのマウスの飼育費用とこれらの加齢マウスでのUSP19ノックダウンによる解析費用を次年度の使用額としている。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額が生じたことによる使用計画は以下の通りである。USP19による筋量調節が雌雄間での生理的なエストロゲン濃度の違いによるものであった。上記理由に提示したように、女性ではエストロゲン濃度は生涯にわたり変動する。したがって現在加齢モデルマウスを作製し、これらのマウスのエストロゲン濃度や遺伝子(USP19、ERα、ERβ)発現レベル、さらにUSP19ノックダウンによる筋量の制御の存在の有無を評価するため、長期飼育中である。次年度使用額はこの飼育費用及び試薬費用、特にin vivo(マウス)でUSP19をノックダウンする遺伝子導入試薬費用である。
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